そこはどこまでも続くような気がする閉じた世界だった。
冷え切り、どこからともなく吹雪く雪の結晶が舞い散り月の光さえもこの地下世界に届くことはない。
そこを歩くただひとつの人物が悠々と歩いている。
だれ?
それは強く吹き荒ぶ雪の中で、地面に咲き誇るただ一色の雪の花畑を歩く中でその人物が確かに聞いた音だった。
その人物がその声に反応することはない。ただ光沢のある黒衣のドレスを身に纏い、吹雪く雪の風に黒く艶やかな長い髪を靡かせて、相反する白い素肌を少しだけ紅く染めながら、小さな口から洩れた白い息が雪とともに攫われていく。
本来であればその人物が身に纏う薄手のドレス程度では、この極寒の世界において呼吸をする前に全身も身体の内部も凍り付いてしまう。
「………………」
だがその人物は一度立ち止まり、声が聞こえた方向へと進路を変えて無言のまままたも歩き出す。
その手には極寒の世界に咲いている花と同じ物の花束を持っている。
何も知らずその花を手にした者は凍り付き、その花が咲いた場所は噴火しかけた山を鎮め、広大な湖さえも凍り付かせた。
常人では触れられない、得体の知れない災害の花としてあの夜に咲いた魂の残滓を、彼は長い旅路の果てにかき集めた。
それはこの極寒の地底世界の中心地、氷墓の献花台にて眠る彼女ために。
「……お前の想いは並大抵の奴じゃ受け止めきれないらしい。だからこれはお前が持っていろ。お前の、生きる意志を」
献花台に捧げた氷の花束が、みるみるうちに氷墓に取り込まれ、そして墓は中に閉じ込めていた一人の精霊を生み出すように弾け飛ぶ。
そして彼と彼女は再会する。
それがたとえ氷の地獄でも。それがたとえ終わりを宣告されたあとでも。
それがたとえ、誰にも見つからない場所であっても……。
彼女は彼の胸の中に戻るだろう。今度こそ、確かな絆を持ち寄って。
―――――――――――
突然に【月下に示すは汝の意志なり】のエピローグ前の話を書きたくなったのでここに投下させていただきました!
この光景だけは決まっていたので、不完全燃焼は良くないよねぇ……と思っただけですが、どんな風な内容にするかは当時決まっていなかったので完全な自己満足で投稿します。
タイトルを添えるなら【氷墓の献花台】とかでしょうか? それとも【再会の氷華】とかでしょうか?