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🎀新編 長安変奏曲、第4章 帰国、第3話 水主の説得

🎀新編 長安変奏曲(古代~近世官能シリーズ⑦)、https://bit.ly/410wYps
 第4章 帰国 完結
 第1話 空海と逸勢の帰国
 https://x.gd/hOAOe
 第2話 古代の女の船旅
 https://x.gd/YZg7f
 第3話 水主の説得
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 遣唐使判官、高階遠成が水主たちの前に進み出た。絹の袍に金糸の帯を締め、玉佩がチリンと鳴る。「水主どもよ、これは空海法師と橘逸勢殿の頼み事で、これら三人の女を遣唐使船に同乗させるのだ。空海法師と橘逸勢殿にその理由をお前たちに説明してもらおう。お二人は、女どもを船に同乗させても海神の怒りはなく、むしろ海神が我らをお守りしてくださると申されておる。空海法師、橘逸勢殿、水主たちに説明願う」と高階遠成は責任を二人に押し付け、涼しい顔で一歩退いた。

 まず、逸勢が水主たちの前に進み出た。緋の袍を翻し、緊張を隠して声を張る。「水主どもよ、お前たちは女を乗せると船魂が怒り、海神の祟りで船が沈むと言うが、今を去ること百年前の第八次遣唐使船でも、博多津から蝦夷の女を乗せたケースがあったのだ。その時も博多津からここ福州・赤岸鎮に無事到着したではないか!」と力説した。

 水主頭が麻の袴をたくし上げ、前に進み出る。日に焼けた顔に疑いの色を浮かべ、「橘様、その話は儂の曾祖父さんの時の話で、確かに聞いておりますっちゃ。じゃが、それは我が朝廷が唐の朝廷への生口として献上する貢物だったと聞いております。その時は、朝廷からのご指図があったはず。橘様、この三人の女は我が朝廷への生口でしょうか? 唐の朝廷からのご指図がおありでしょうか?」と鋭く反論した。ざわつく水主たちに、逸勢は言葉に詰まり、「いや、それは…」と口ごもった。

 空海が静かに逸勢の前に進み出た。僧衣の袖を揺らし、穏やかな声で語り始める。「水主たちよ、まずは拙僧の法力で海神の怒りは鎮まるのだ。安心されよ。これら三人の女は、我が朝廷への生口ではない。大唐帝国の貴重な知識を持つ者たちだ。|葵《あおい》は日本の民だが、唐の文化を吸収し、|小蘭《しょうらん》と|小梅《しょうばい》は漢人の芸妓として、詩歌と礼儀を極めた。彼女たちを日本に連れ帰り、唐の知識を我が国の民に伝えるのだ。それこそが遣唐使の使命に適う」と静かに説いた。

 水主頭が眉をひそめ、胡座をかいたまま声を荒げる。「法師様、お言葉を返すようで恐縮やけど、儂らには大唐帝国の貴重な知識とか、御大層なことはわからんっちゃ! じゃが、女は月のものになるやろ? 経血が船を穢し、海神の怒りを買って嵐や沈没を招くんや。法師様は、女どもの月のもの、経血を止められるかね?」と詰め寄る。水主たちのざわめきが強まり、船のロープが軋む音が響いた。

 空海は一瞬目を閉じ、微かに笑みを浮かべた。「さすがに、拙僧も女の月のもの、経血は法力でも止められん。仏の道の埒外に女の体はあるからな」と率直に答えた。逸勢が「おいおい」と顔をしかめ、|葵《あおい》が「なんじゃ、それ!」と広島弁でつぶやく中、空海は続ける。「だが、それは拙僧の法力の埒外であるとしても、拙僧の式神たちが海神の怒りを鎮めてくれようぞ。夢魔共よ、出でよ!」と九字を切り、指を組んだ。

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