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「新 奴隷商人 アルテミス編」第20話 アイリス

🔴新 奴隷商人 アルテミス編(紀元前47年の物語③)、https://bit.ly/3F1UqdU
 アルシノエ四世の生涯
 https://x.gd/6dVWy
 第20話 アイリス
 https://x.gd/QssQk

「第20話 アイリス」でアルシノエ四世が登場しますので、短編「アルシノエ四世の生涯」をこちらにも転載いたしました。

 シーザーが言っていた「アルシノエ四世はクレオパトラの何かを知っているのかもしれん。それもクレオパトラのバケモノの素性に関することなのかも」という言葉がアルテミスは気にかかった。

 ムラーに知性体が転移する3年前、紀元前50年のこと。

 ベリタス(現在のベイルート)市街で商談を済ました俺は、魚臭い港を通り、海岸線伝いに北へ伸びるローマ街道をゆるゆると歩いていく。お供には海賊のピティアスを連れて行った。

 古代からのフェニキアの都市国家のティルスとシドン、グブラ、ベリタスは今やローマ帝国の統治下にある。今から十五年前の紀元前64年、ローマによる侵攻から、フェニキア地方の統治はセレウコス朝シリアからローマに移った。

 ローマ帝国(正確には共和制ローマなのだが面倒なので呼び名はローマ帝国で統一しよう)の治世になって良いところは、ローマ軍団が街道整備をしてくれて、平坦でほぼ直線の道が整備されたことだ。

 軍団兵は、わざわざ内陸まで敷石に使う花崗岩を採取にいって、拳よりもかなりおおきな塊に砕いて敷き詰めていく。彼らはご丁寧にも表土から1.0~1.5メートルほど掘削し、粒径の異なる砂利、砂を敷設した後、接合面がぴったり合うように切った一辺70cm程度の大石を隙間なく敷き詰める。幅四メートルほどの車道の中央は高く弓形の排水勾配を設けて、車道内に雨水が浸透しないよう配慮した。だから、水はけがよく、車道に水たまりができることはない。

 車道はローマ軍団の移動に使われる。軍団が移動しない時は馬車などの交通も許される。車道の左右は幅三メートルの歩道になっている。車道と歩道の間は雨水溝が切ってあり、車道の表面の水は雨水溝に流れる。自国の統治のためとは言え、半島だけではなく、この東のパレスチナまで街道網を整備してくれるなどありがたいことだ。 

 街道だけではない。ベリタス(現在のベイルート)にはないが、円形劇場などの娯楽施設も整備してくれた。闘技場、大浴場、図書館、青果食肉市場が整備された。また、ローマの商人の扱う杉材(レバノン杉)、香水、宝石、ワイン、果物がローマに輸出されて景気も上々だった。我々商人を生業としているフェニキア人にとって、ローマ帝国の治世に文句はない。セレウコス朝シリアが出ていってありがたいくらいだ。 

 大浴場を過ぎて、娼婦街に差し掛かった。店の前のベランダに娼婦共が腰巻きひとつで胸をさらけ出しながら涼んでいる。俺に色目を使う娼婦がいるが、彼女らにあまり興味はない。

 声をかけてきた娼婦に「ウチの女どもで俺は精一杯さね。おまえらにわけてやるほどの精力が余っちゃいない。小遣いをやるから勘弁してくれ」とピティアスに目配せする。

 ピティアスはエジプト女にデナリウス銀貨を数枚握らせた。「旦那、ありがたいけどね、銭よりも旦那の竿が私は欲しいんだよ」という。「今日のところは銭で勘弁だ」

 娼館を通り過ぎると、アラビア風の作りのアーチ型の柱を連ねた大理石の建物が数棟続いて建っている。奴隷市場だ。

「ピティアス、のぞいてみるかね?」
「ええ、旦那、ベッピンの出物があるかもしれませんぜ」

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