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『いま、会いにゆきます』
面白いと感じたのは佑司君の耳掃除。母親に甘えるシーンと共に、今までの耳が悪いことや、夫婦で驚くシーンは家庭の日常を味わわせてくれた。
登場人物はやっぱり佑司君が一番良かった。等身大の子供の行動や思考、最後の手紙の場面など見ていて心が温まった。
面白い設定は一つファンタジー要素を入れていること。この作者さんは作品の中に一つファンタジー要素を入れている。しかし、その要素がどのようにして生まれたのかというシーンは書かず、最後まで謎が明かされないまま物語は終了する。しかし、そこに焦点は当てていませんよと、それ以外は実にリアリティある形で描かれ、読み終わってもあと残りがない設定として存在していた。
こういう話が面白ければ、細かいことはいいだろうというのを最後まで納得感ある形で書き切るのは、ほんとうにすごいと思う。
一番感動したシーンはやはりタイトル回収の場面。
自信の結末を理解していながらも、愛するものの元へと向かう。
深い愛情と揺るがない決意が同時に描かれるシーンは、涙を誘う。
『首吊り男のための協奏曲』
面白いのは探偵が一本取ろうとする章。途中で「チャップリン」の話をしているのだが、その内容を章に組み込んでいるのに気付いて、なかなか憎いと感じてた。
探偵のキャラはとても面白かった。章をまたいで活躍しているがどこでも一貫して仕事をしているとおもいきや、たまに気障なことをいったりと見ていて飽きないキャラだった。
首吊り男が周辺に書かれるのかと思いきや、その周りのシーンを描いていくという、少し特殊な書かれ方がしていることが面白かった。しかし、その周辺の話がこれでもかと濃く書かれていた。
個人的に主人公とされている人たち以外にも、物語はあるんだよと自分は感じた。
あとがきを見るとどうやら、各話が短編(一応いくつかの話はつながりがある)で作られたものらしい。しかし、一見関わりのない話が二つほど入っているのに、違和感はあまり感じなかった。
おそらく、首吊り男周辺の人物に焦点を当てていたからこそ、話に関係のない短編であっても違和感なく読めたのかなと思った。
作者は意図しない形で歯車が上手くかみ合った、と(多分、こんなこといっていた)表現していたが、テーマとしては「事件とはあまり関わりのない普遍的な人物を書く」というものが一貫していたのかな?