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映画感想:チェンソーマン レゼ編

あらすじ:主人公デンジが不思議な少女レゼと出会い、惹かれ、戦い、別れる物語。

感想
 物語の主軸はバトル漫画のボーイミーツガール短編。面の良い女に手玉に取られるラブロマンスな前半と、圧倒的強者に争うバトルアクションの後半。その節々に芸術的なシーンが散見できる。
 この映画の主軸はヒロインのレゼだろう。彼女の仮面の下の、更に下。分厚い殻の下にある、少女的理想。計算高いヒロインが、最後に手を伸ばした王道的理想。路地を走るその姿はまるで恋人のもとへ走る少女の様だった。その機微がなんと愛おしく、美しいのか。
 この映画はバトルアクションとして観ると王道な起承転結だ。しかし私は、この映画のクライマックスは中盤にあるプールのシーンだと思う。裸の少年と少女が、夜のプールで戯れる。少年漫画であればお色気シーンやサービスカットと言われるだろうにもかかわらず、ここにはただ美しさがあった。美しさだけがあった。朧げな夢の世界に迷い込んだような錯覚。いや、正しく夢だったのだ。それは二人の理想で、叶うことのない夢の鱗片だ。水の中で、雲の上で、どこかの隅っこで。あのまま駆け落ちていくのを、誰が悪いと思うだろうか。
 そしてバトルシーンを挟み、水底に沈むシーンだ。暗く、昏く、静かで、重い。それでも悪くないと思わせるのは、二人一緒だからだろうか。押入れの布団に手を突っ込んだ時の、冷たく、重く、体の輪郭が浮き出てくる様な感覚を覚えた。そんな心地よさと不可思議がない混ぜになったような。二人一緒に雁字搦めで、抱き合うように沈んでいく。熱烈なプロポーズそのものだ。酷く羨ましい。好いた女を抱きしめて死ぬ、バッドエンドなのにハッピーエンドで。どこまでも、ボーイミーツガールで。
 各所に散りばめられた芸術性はさながら美術館のようだった。ただ美しいものが見たくなった。ただ綺麗なものに触れたくなった。どうか私も連れて行ってくれ。神でも悪魔でもいい。どんな契約にもサインをしよう。私は酷く焦がれている。ただ美しいものを見たい。それだけだ。

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