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映画感想:西部戦線異状なし

タイトル:西部戦線異状なし
あらすじ:第一次世界大戦にて、西部戦線に送られるドイツ兵の参戦から終戦までを描いた映画。

感想
 戦争の悲惨さを描いた物語で、人命が数字として消費される現場を見ることができる。感想は大きく二つ。一つは誰も救われないと痛感したこと。もう一つは自分たちは恵まれていると理解させられること。
 歴史を見れば、このような物語は記されていないだけであり、ありふれた物語であることは予想に難くない。その違いは年代と場所、人種、それから武器。それだけだ。きっと今後もどこかで起こることだ。おそらく現在、ウクライナとロシア間では起きていることだ。今も誰かが死んでいる。そして私は平和を享受している。これが現実だ。これだけが現実だ。
 見ていて気が付いたことは、静と動の使い分けについてだ。戦争の中なのに静かなタイミングがある。動きの中に一瞬現れる静寂が印象的だった。静を表現する技術が欲しいと痛感した。あのおどろおどろしい静寂。恐ろしい。静寂が何よりも恐ろしい。そこら中に散らばっている死の痕跡。はたして死が映っていないシーンはあっただろうか。
 もう一つ印象的だったのは、吐いた白い息だ。溶けるような白は、先の見えない人生そのものだろうか。過酷だ。戦争は過酷だが、その前から、遥か前から生きることは過酷だった。そしてこれからも。世界は過酷で飽和している。なのになぜ人類は自ら軍靴を鳴らし、底の無い泥沼へ行進できるのだろうか。なぜ逃げないのだろうか。人間だけが、逃げることができないのだろうか。きっと呪われているからだ。我々は我々自身を呪っている。
 この映画を見た後、戦争をエンターテイメントとして消費することに気後れを感じるようになった。私たちが過酷さを知るためには不可欠だが、気後れしてよいのだろうか。知ることを拒むことは、戦場で蹲ることだろう。我々は戦争を知らない。だからこそ戦争を知らなければならない。それだけはわかる。それだけがわかる。
 私は行けない。西部戦線には行けない。何かを作り、何かを伝える。それだけが望みだ。私は行けない。
 西部戦線異状なし。これが異状なしなのだ。世界は通常で溢れている。異状はない。どこにもないのだ。否。平和だけが異状なのかもしれない。


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