異界観光案内所・クリスマス特別編を書きました!
本編とは違った季節感のあるストーリーをお楽しみいただければと思います!
「寒……」
朝起きて、私は再び布団に包まった。
私こと|狭間《はざま》 |流歌《るか》が異界観光案内所に来て初めての冬。
異界にも四季がある。
四季が崩れつつある日ノ国とは違って明確に四季があるから冬は寒い。
「でも、起きないと……」
休日とはいえ、|多倫《たりん》さんが食事処で作る美味しいご飯を食べ損ねたくない。
着替えて私は食事処に向かった。
今日の朝ご飯は……生姜の良い匂い。
生姜の炊き込みご飯に、具だくさん豚汁。
出汁巻き玉子に白身魚のあんかけ。
白菜の漬物だ。
「美味しい!」
生姜に豚汁で体はすぐ温まる。
まるで晩ご飯みたいなメニューだけど、異界ではご飯をしっかり食べておかないと心身に影響する。
「生きてて良かった」
と、心の底から思う。
「流歌、おはよう!」
「あ、烏源さん、おはようございます!」
烏天狗の烏源さんだ。
彼女は私の正面で朝食を食べ始める。
「そういや、前にお客に聞いたんだけどね」
「はい」
「日ノ国じゃ、”くりすます”っていうお祭りがあるんだってな!」
クリスマス……そういえば、そんな時期か。
「はい。ありますよ」
「なんかでっかい木に人魂だったか、火の玉だったかあとは七夕飾りいっぱい吊るして、赤と白の着物着て踊り狂いながら揚げ鶏を貪り食って、最後に赤と白のケーキを食べるんだよな! んでから子供は赤と白の着物着た髭の長いジジイに食われるって聞いたぜ!」
……一体、どこの世界の日ノ国の話だろう。
私は目が点になって、首を傾げた。
その様子を見た烏源さんが不思議そうに私に聞き返す。
「うん? 何か違ってたか?」
「えぇと……はい、そう……ですね。丸っきり違います」
人じゃないと、クリスマスってお祭りはそんな風に見えるんだろうか……。
「木に火の玉なんてぶら下げたら、木が燃えちゃうじゃない。何なのよ、その危険なお祭り」
横から口を挟んで来たのは白い猫の白珠さんだ。
そっか……白珠さんは日ノ国にいた猫だけど、クリスマスが日ノ国に入ってくる以前にこの次元に来たから知らないよね。
周囲を見渡してもクリスマスを知らないと思われる案内員ばかりだ。
私は説明をした。
「本来は、キリスト教の聖人――イエス・キリストの誕生を祝うお祭りなんです。でも、今の日ノ国ではイベントみたいなものですね」
子供の時は、両親とケーキを食べて、寝ている間にどんなプレゼントを貰えるのかワクワクしたな……。
「揚げ鶏というか、フライドチキンを食べるのもそうですし、クリスマスケーキを食べるのもそうです。あとは、家族や恋人と過ごすためですね」
あと、クリスマスツリーに飾るのは七夕飾りや火の玉とかじゃなくて、電飾とかモールとかクリスマス用の飾り。
まぁ、サンタクロースのコスプレはするけれど、踊らない。
というか踊ったら違うお祭りになる……もしかしてハロウィンと間違えて……いや、ハロウィンも踊らない。
一体、何を吹き込まれたのか、すごく気になる。
それは置いておいて。
私は声を大にして言いたい。
「サンタクロースは子供たちにプレゼントを配る優しいおじいさんです!」
私の説明で納得、してくれたかな……。
「なるほどな……日ノ国って変な国だな」
「本当ね。誰かの誕生日をそんなお祭りにするなんて」
まぁ……クリスマスが終わったらお正月って慌ただしいし。
「クリスマスパーチーってのは、楽しそうだけどなぁ」
烏源さん……パーチーじゃなくてパーティーです……。
「ただうるさいだけじゃない。川流が滑って転んで、ケーキに突っ込む未来しか見えないわよ」
白珠さんに同感。
後ろで川流さんが
「酷い! そりゃドジだけど……」
と泣いている。
「でも一回くらい、やってみたいよな! ふれーどちきんってのも食べてみたいしな!」
あれかな……烏源さんはツッコミ待ちなのかな……。
「フライドチキンですね」
「そうそれ!」
でも難しいだろうな。
日ノ国が少し……恋しくなった。
それでもこの次元が、嫌になったわけじゃない。
私の居場所はここだと決めたから。
その日の昼。
「これ、どうしたんですか?」
食事処には大きな木が。
「あぁ、何でも川流が率先してクリスマスパーチーやるって息巻いてて」
「そ、そうなんですね……」
「あ! 流歌さん! クリスマスパーチーについて教えてください!」
何だか、楽しそう。
「はい!」
烏源さんだけじゃない他の皆も集まりだした。
「仕方がないわね。手伝ってあげるわ」
と、やっぱり気になっていたのか白珠さんも参加してくれた。
皆で買い出しに行って、使えそうなものを探す。
外は雪が降っていた。
日ノ国でも見る傘は少ない。
笠と蓑を身にまとっているのが多い。
「また滑ったぁぁぁぁあ!」
うん、川流さんはいつもの通りだ。
折り紙があったから夜までには手分けして色々とできそう。
「モールなんて置いてる! さすがに電飾はないですね……あ、星の飾り!」
クリスマス用の装飾もないけれど、どうにかなると思う。
買い出しから帰ったら、折り紙でモール代わりの装飾も作って皆で飾り付け。
誰かと一緒に、何かを準備する時間が、こんなにも温かいものだったなんて。
きっと学生の時以来。
「あら、何か騒がしいと思ったら」
そこに実方所長と玖津祢様がやってきた。
「ふむ。クリスマスか」
「さすが、玖津祢様は知っていたんですね」
「まぁな」
と、玖津祢様と実方所長が何かをテーブルに置いた。
「クリスマスにはチキンと聞いて、買い出しをしてやった。皆で食べると良い」
「こう見えても玖津祢ちゃんは日ノ国のことも聞きかじってるものね」
私含め、全員歓声を上げる。
実方所長が何かを多倫さんに渡して見せている。
すると多倫さんが玖津祢様達が買ってきたチキンをすでに一齧りして震えていた。
かと思うと、猛然と作り出す。
「皆、今日はクリパよぉ~!」
再び歓声。
そして――夜。
「皆ご苦労だった。本来のものとはかけ離れるだろうが、日ノ国でいう現代のクリスマスパーティーに近いもので祝うこととする。今後も任せたぞ」
玖津祢様が言う。
「皆お疲れ様! 今日は楽しみましょう!」
そして実方所長。
乾杯をして皆で笑い合いながらご飯を食べる。
フライドチキンの食べ比べ――食べ慣れたフライドチキンも美味しいけれど、多倫さんのも美味しい!
どっちが、なんて決められない。
最後には大きな苺が使われたショートケーキ。
川流さんは……今夜は転けないように慎重に運んで、転けずにテーブルに運べたからなのか、美味しいからなのか、感激しながら食べている。
「良いな、クリパ! 鶏皮も美味いし!」
「悪くないわね」
烏源さんの言葉に白珠さんも鶏皮を齧って満更でもない顔だ。
「はい! どれも美味しいですね!」
皆で美味しいものを食べて、飲んで、笑って。
「来年はもっと飾りたいわね。ねぇ? 玖津祢ちゃん」
「……分かった。考えておく」
来年はもっと色々と飾れそう!
「お願いします!」
「善処する。ところで、本当にこれで良かったのか?」
「はい。クリスマスは、自由だと思いますから」
「そうか。ならば、来年も晴れの日として良いかもしれんな」
「来年は七夕飾りみたいなのだけはやめたいです」
そう私が言うと、玖津祢様は仕入れについて考え直すと言ってくれた。
「一応、馴染みもいたがな。最近、新しい奴が商いをしている。期待ができる奴だ」
「日ノ国の人、ですか?」
「あぁ。まだ若い」
「いつか、会えますかね?」
「奴はあちこちの次元を渡り歩いているようだから、難しいかもしれんな」
残念。
どんな人なんだろう。
いつか会えると良いな……。
「ほらほら、流歌ちゃん! そんな仏頂面に構ってないで」
「おい。実方」
「言われたくなかったら仏頂面やめなさぁい」
「消すぞ」
と、言った瞬間に周囲はドン引き。
なのに実方所長だけはケラケラと笑っている。
玖津祢様は咳払いをすると、
「冗談だ。楽しめ」
と言ってくれた。
お陰でとても楽しい時間を過ごせた。
この次元で初めてのクリスマス。
クリスマスツリーは若干、七夕寄りになったけれど皆で飾るのが楽しかった。
来年は来年で楽しみ。
来年も、この次元でクリスマスを楽しめたら良いな。
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という訳で、異界観光案内所のクリスマス企画 聖祭ノ鳥居でした。
「はっぴーめりーくりすまぁぁぁぁす!」
川流さんが何やらいつも通り滑って転んで、こちらまで乱入して参りましたが……。
皆様、Merry Christmas!
良い一日をお過ごしください!
「あああああ! 待って、まだ明日から第二ノ大鳥居を投稿する告知が――」
川流さんなだけに、流れて元の次元に戻ったようです。
明日より第二ノ大鳥居を公開します!
あの次元に戻った流歌。
しかしトラブルが!?
お楽しみください。