異界観光案内所・正月特別編を書きました!
本編とは違った季節感のあるストーリーをお楽しみいただければと思います!
「なぁ、流歌。日ノ国じゃ、正月はどんな感じなんだ?」
「お正月……」
騒がしくて楽しいクリスマスからすぐ。
食事処で烏源さんが口を開く。
「クリスマスがアレだったんだもの。どうせ、除夜の鐘が鳴った瞬間に、踊り狂うようならんちき騒ぎが始まるんでしょ」
と、言うのは白珠さん。
白珠さんだけはまともだと思ったのに……!
「そんなことないですよ! ……そりゃぁ、そんな人もいるかもですけれど」
ない、とは言いきれない。
「まずカウントダウンですね。皆で声を揃えて、数字を十から一にかけて数えたり、地域によりますが、新年開けると同時に花火が上がるところがあったり」
静かなお正月もある。
富士ノ山の初日の出を拝むために山登りをする人だっているし、静かにいつも通り過ごして三が日も平日と変わらない人。
「色んなお正月があります。それに、一日は餅つきをしたり、お雑煮を食べたり、お節料理を食べたりします! お節には最近はローストビーフとか、合鴨のローストとか、お洒落にもなっているんですよ!」
「食べ物ばっかじゃないか」
「ホント。まぁ、生きるのが短い”人”らしくて良いんじゃない。てっきり、らんちき騒ぎのお正月かと思ったわ」
そう言われたらそうかも……。
「駒回しとか凧揚げは最近あまり見ませんね……」
やっている地域もあることにはあるけれど、きっと大昔と違って減っている。
「逆にこの次元でのお正月はどうなんですか?」
「アタシらは普通さ」
「そうよ」
と、烏源さんと白珠さんが教えてくれる。
「まず面を被るんだ」
「お面……?」
「そうよ。おかめやお多福、ひょっとこ、恵比寿、狐なんかの縁起物のお面よ」
初めて聞いた。
その時点で日ノ国と違うし、普通って……と私は思う。
「そんで皆で伏見ヶ稲荷ノ大社に、玖津祢様に祈りに行くんだ」
お祈りの内容は、一年を無事に過ごせたことを報告したり、福や円満を祈ったりするらしい。
お面を被るのは顔を見せないためと厄除けなんだとか。
「玖津祢様に……。でも、なんだか良いですね」
「おっと、流歌は初めてだもんな! 後で売店にも売ってるから、好きなお面買っとけよ」
そうしよう。
「ご飯は何か特別なものを食べますか?」
「料理はそんな変わんないな」
お雑煮、黒豆、数の子、田作り、たたきごぼう。
昆布巻きに干し柿。
思ったより質素。
でも古い日ノ国ではそれが祝い肴だったらしい。
「流歌の言ってた、ろすとんびぃふ、ってのも気になるな」
「違うわよ。ろーすてんべいふ、って言ったわよ」
烏源さん、白珠さん……どっちも違う……!
「流歌さんが言ったのは、ローストビーフってのだよ! って、うわぁぁぁぁあ!」
そう言いながら川流さんが食後のおやつのお団子とお茶を持っていたけれど、見事に滑って転んだ。
毎回毎回滑って転んで、ある意味才能かな……。
今回はおやつの団子は死守できたみたい。
「あああ……またやっちゃったぁ……」
「お前、来年は転ばねーように祈っとけよ」
「無駄よ。永遠に川流は転ぶ運命なんだから」
二人とも酷い!
と川流さんが声を上げている。
「あ、でも今のうちに多倫さんに言っておけば、今の日ノ国のお節料理、作ってくれるんじゃないかな」
「そっか……私、言ってみるね!」
せっかくなんだもの。
皆に今の日ノ国のお節料理も食べてもらいたい!
「また騒がしいな」
ピタリ、と食事処が静かになった。
「はぁい、皆ちゅうもーく!」
そして実方所長だ。
なんだかクリスマスの時みたい。
デジャブを感じる。
「昨今、日ノ国では様々なお節が出ている。そこで、情報を仕入れて置いた。多倫が作ってくれる」
さすが、玖津祢様!
「あと、はい。流歌ちゃん」
と、実方所長が私に手渡してくれたのは狐のお面だ。
何だか玖津祢様みたい。
「年末年始はこれを付けてお参りするのが、この次元のしきたりよ。使ってちょうだい」
「はい! ありがとうございます。さっき烏源さん達からも話を聞いて、後で買おうと思っていたんです」
楽しみだな、お正月が。
「では、皆。詳しい挨拶はまた年始にする。しばしの休暇を思う存分楽しめ。晴れ渡れ」
玖津祢様が言うと、皆も口を揃えて
「晴れ渡れ」
と言う。
どういう意味なんだろ。
「烏源さん、その晴れ渡れってどういう意味があるんですか?」
「あんたそんなことも知らないのね」
白珠さんが説明をしてくれた。
晴れ渡れ、というのは日ノ国でいう、良いお年を、という意味に似ている。
陽の気で陰の気を払うために、晴れ渡れ、と言うんだって。
「そっか……とりあえず、年末年始が楽しみです!」
そうして迎えた、年末年始。
私は皆と伏見ヶ稲荷ノ大社へ向かった。
ちゃんと実方所長からもらった狐のお面をつけて。
皆で並んで玖津祢様に挨拶をしていく。
すごいたくさんの人や人じゃない人たちが次々と挨拶をしては去っていく。
どれくらい並んだだろうか……。
そして私の番になった。
「玖津祢様。晴れ渡れ、です」
「あぁ。貴様にとってはこの次元で初めての年末年始だ。今後も励め」
「はい!」
次の人もまだまだ並んでいる。
それだけだったけれど、何だか心が軽くなったような気がする。
きっと、この時に玖津祢様はたくさんのおまじないを、参拝者にかけているのかもしれない。
「さて、戻って多倫のお節、食べに行こう!」
「ずっと並んでてお腹が空いたわ」
「ボクなんてオヘソと背中がくっつきそう!」
お節、楽しみだな。
皆でワイワイ話をしながら食事処に向かう。
そこにはすでに、お節が用意されていた。
一人一つの小さめのお重。
受け取って座るとすぐに私達はお重を広げる。
「ローストビーフ! 合鴨のローストも!」
あとは栗きんとんや、エビ。
数の子に黒豆。
田作り、たたきごぼう。
昆布巻きに干し柿。
汁物はやはりお雑煮!
丸餅で白味噌に鰹節をかけただけのシンプルなものだ。
「美味しい!」
今年のお節重は、日ノ国のお節とこの次元のお節を組み合わせた豪華なものだった。
皆で夢中になって食べた。
日ノ国のお正月とはまったく違うけれど、これはこれで良いと思う。
「やっぱり、来年も……その先も……私はこの次元にいたいな」
来年も良い年になりますように。
部屋で一人、私は静かに祈ってから布団に入ったのだった。
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年内に見てくださった方は、良いお年を!
そして年明けに見てくださった方は、明けましておめでとうございます。
小説をお読みいただいてありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。