この物語は、リスト『愛の夢 第3番』を聴きながら書いています。
甘美で華やかな曲として知られていますが、
原詩はこのような言葉で始まります。
愛し得る限り、愛せ
やがてその時は来る
墓の前に立ち、嘆く日が
愛の甘さのすぐ隣に、あらかじめ喪失が置かれている。
この物語もどこかで同じ構造に触れているのかもしれません。
美しさが極まると、わずかな不穏さが生まれることがあります。
『愛の夢 第3番』の長いレガートも、
幸福そのものというより、
永遠に届かないものへの渇望のようにも聴こえます。
長い旋律の下で左手のアルペジオが絶えず揺れ続け、
夢と現実の境界が、少しずつ曖昧になっていくような響きです。
第三話では、
男の部屋を埋めていく本の背表紙が
「無数の墓碑」のように見える場面を書きました。
死を記した言葉を読み続けることは、
その墓碑の前に立ち続けることにも似ていると思えました。
この物語の彼は、とても静かです。
けれど、その静けさの底には、消えない時間が沈んでいる。
音楽は直接のモチーフではありませんが、
書いているあいだ、ずっと背後にあった旋律です。
よろしければ、読後の余韻とともに聴いてみてください。
同じ曲でも、弾き手によって響きはまったく違います。
どの旋律がイメージに重なるかは、
聴く方それぞれに委ねたいと思います。