胸に深く沈んだ思いほど、言葉として浮上させるのは難しいものです。
好きな作品を読むたびに、この人はどうやってこれを言葉にしたんだろうと考えます。
胸の奥にあるものに手を伸ばして、その形……いや、形のあるものかどうかすらわからないけど、
その感触に手を伸ばして、それを文字に置き換える。
その過程が途方もないことに思えて、ずっと読む側にいました。
だから、言葉や小説が好きで、自分でも書いてみたいと思いながら、長いあいだ書けませんでした。
形になりそうな気配まではあるけれど、掬い上げた瞬間に別のものになってしまう気がしていました。
それでもようやく、こうして書いてみることにしました。
……するとどうでしょう。
今度は登場人物たちが、ほとんど喋りません。
この物語の二人は、核心に近いものほど言葉にしません。
男は本当に聞きたいことを声にしない。
言葉で尋ねても答えにはならないと、どこかで思っているから。
作家は言葉を扱う人間のはずなのに、自分に向けられているものの正体を、言葉で確かめようとしない。
一番大事なことが、二人のあいだで言葉として交わされないまま、物語が進んでいく。
けれど、声にならなかった問いは消えるのではなく、別のどこかに現れる。
そのことを、書きながら知りました。
結果として、私の小説は地の文がとても多い形になりました。
ちょうど第一話を公開する直前、創作界隈では「地の文とセリフのバランス」という話題が盛り上がっていました。
なかなかのタイミングで、目に入るたびに、正直自信をなくしたりもしました。
それでも公開してみると、読んでくださる方がいました。
こうして読んでいただけていることが、とても嬉しいです。
本編はあと一話です。
最後まで見届けていただけたら幸いです。