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【解説】ミワ山の「プラス」についての裏話

 昨日投稿した「ミワ山」ですが、前回の近況ノートで触れたように書き味が「佐伯」です。そういうわけでキャッチコピーの「プラス」の意味にも触れつつ、ちょっと「山田さん」について考えていきます。

【ミワちゃんこと山田さんの話】
https://kakuyomu.jp/works/822139839904218734

 ちなみに「佐伯」の技法にも触れるので、未読のかたは「佐伯」も合わせて読んでもらえるといいかなあと思います。これを機会に、是非「佐伯」もどうぞ。性的接触しか接点のない男子高校生同士の何かです。タグで一応BLとしましたが、これは広義のBLではないと思います。

【佐伯はみんなのものだから】
https://kakuyomu.jp/works/16817330669648707220

 もちろん両方とも文字通り主人公に感情移入して読んでハッピーエンド、でもいい読み味だと思います。特に「佐伯」はそうです。主人公の網代木に感情移入して、こっちは良い方向に進んでいるので佐伯も頑張れよ、みたいな終わり方。網代木からも読者からも佐伯の情報はほとんどないのでプラスになるよう想像するしかないのですが、金のために身売りをするような奴が果たして幸せになれるのかというとそんな訳がないということで、佐伯Sideは端的に言って地獄です。その地獄は現在『流砂の底』で書いている次第です。

 さて、山田ちゃんに話を戻すと作中で明らかになっているのが「兄が性犯罪で補導(逮捕)されている」「そのため地元からわざと遠い高校を選んで無理をして通っている」「家の都合で進学を制限された」というところです。そして咄嗟に「金玉男」など啖呵を切れるくらいの度胸もあるみたいです。

 ここでこの話のメイキングを少し書くと、最初にオチの「山田から山口になりました」だけ思いついて、後は全部逆算です。当初はもう少し階段のエピソードを膨らませて「大して変わらんw」くらいのノリで終わらせる予定でした。その名残が若干しつこい階段描写に残っています。階段で出会ったタイプの違う女の子。仲良くなって、結婚報告される。そんな単純な話のはずでした。どうしてこうなった。

 ここで「山田」の意味に戻るのですが、山田さんは地元や家に帰ると「あの山田の妹」になります。詳しいことは作者もよく考えていないのですが、山田さんの兄は罪人です。山田さんは被害者だけではなく、「犯罪者の妹」として扱われることになったわけです。おそらく家庭は荒み、父親はアルコール依存症で母親は宗教に走ってなんてことになっていたかもしれません。あれ、この設定は一体どこの誰なんだろうな……?

 ひとつだけ確実に言えるのは、ミワちゃんはそういう家庭の事情をなるべく隠していた、ということです。根拠として「でも、そのいい人が少し過剰になっている気がした」という主人公のミワちゃんに対する印象が挙げられます。また、ミワちゃんと呼びかけたときに寂しそうな顔をしたのも、彼女が気軽に「ミワちゃん」と現在呼ばれていなかったことが原因のひとつでしょう。

 作者もミワちゃんの家庭についてそれほど考えていないのですが、彼女にとってそんなヤバい家庭の象徴が自分の名前である「山田」です。地元では「あの山田の妹」扱いなわけで、ミワちゃんが何かをしたわけでなくても「あの山田の家の」となってしまう。賠償金のせいか荒んだ家庭のせいか定かではありませんが、家の都合で進学費用もそれほど出してもらえない。つまりミワちゃんにとって「山田」っていうのは呪いみたいなものです。

 それを前提とすると、「結婚しました」というのは「山田の呪い」からの脱出になります。地元にいるのかどうかわかりませんが、少なくともマイナスな因子を抱えている自分の名字を捨てることができたのはひとつミワちゃんにとって前進です。「プラスはもうないよ」というのは「田」の中の「+」がなくなったという意味の他に、ミワちゃんを構成する「山田」の付加要素がなくなったことの現れでもあります。

 そしてミワちゃんはそんな家庭環境を隠すように多少無理をしていた節が見受けられました。そういうのもひっくるめて「無理に明るくいる必要がなくなった」という意味でも「プラスはもうないよ」であります。「山田さん」ではなく「ミワちゃん」を見てくれる人と出会えたことがミワちゃんを「呪われた名字」によって武装した女の子から解放した、というのが裏テーマであります。

 つまり、要はちゃんとハッピーエンドなわけです。どうせ若いうちの結婚だからすぐ離婚するとか、毒なミワちゃんの家庭が山口さんちを苦しめるとかそういうのは考えてはいけません。これはハッピーエンドです!!

 まあ、そんな裏テーマを見なくても普通に「よかったねえ」で終わっていいと思うので、この裏話は読まなくても全然いいです。普通にミワちゃんは幸せになってるねでいいです。でも、そういうのがこういうのを読む上で楽しいんじゃないですかね。登場人物についてあれこれウダウダ考えるの。秋犬さんの作品は結構そういうのあるので、ストレートに読んでもいいし裏のテーマを考えるでもいいですし、好きに読んでもらったらいいと思います。その上で明らかに誤読しているのはちょっとごめんなさいしますけどね……。

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