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トレモロ 3巻 2章 5話



小夜の案内で南西にある故郷の村に向かい、滝の上に来た。

山間からいくつもの川が合流して滝になり、滝の下の湖を囲む様に貯水槽と施設、外堀には集落が見えた。関係者以外立ち入り禁止になっている。

小夜の話では、滝の上はかつて公園があり、神聖な場所だった。

クラウンはチョコのイカロスを使ってみたが、シャーマンや討伐対象はいなかった。「そんな都合良くいないか。」クラウンはつぶやき、チョコをなでた。

「2人も来て。」そう言って、小夜は虎徹の手を取り、滝からはみ出した木々の上を軽やかに歩いた。虎徹は手を引かれ、ついて行った。

クラウンはスノーにしがみついて歩き、ゆっくり座った。

木の重なりに腰を下ろして小夜は言った。「この滝の上から村を見るのが好きだった。あそこの岩場から滝壺に飛び込めるのよ。お姉ちゃんは飛び込みしながら弓が撃てたんだよ。すごかった。弱くなんかなかったのに。」

滝の流れる音、風には潤いがあり、みな深く息を吐いた。

絶景に感動半分、恐怖も半分。クラウンは声がうわずった。
「さっ!小夜さん、この中に知り合いはいない?」クラウンはディスプレイを出した。

「え?こんな事、思いつきもしなかった。シャーマンとエルフが一緒に写ったログを集めてくれたの?」

クラウンは照れながらうなずいた。

「ありがとう!ちょっと見せて。」

しばらくして、小夜が反応した。
「あれ?この子、隣の村の子に似てる。背景からしても帰らざる門だ。」

「帰らざる門?解脱の門じゃなくて?」

「そこを通った者は家族の元に帰ってこなくなるって噂の所よ。正式名称は解脱の門だったわね。完成する前、一度お姉ちゃんと抗議に行った所よ。その当時シャーマンはここによく居たわね。」

「すごい所だね。谷を這う様に白い道が神殿まで続いてる。」クラウンは公式サイトを開いた。

「誰でも入れるのか?」スノーは聞いた。

「信者のふりしないと入れないよ。お姉ちゃんと抗議に行った時は、母の入会書を持って、全身白い服を着て、受付で祈念料(きねんりょう)を払って入った。同行の動物分も取られるからね。」

「今日は遠くまで来た。ここまでにして帰ろう。後日行くとして、その時は小夜も一緒に行こう。」虎徹がゆっくり立ち上がった。

小夜は嬉しそうにうなずいた。

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「あれ?誰か車に近づいてる。」滝の上の高台から見下ろすとキャンピングカーにアードウルフが近づいている。

クラウンはイカロスを使った。マーキングポイントが1ついた。

スノーはディスプレイを見て言った。「討伐対象だな。シシッ。オレが行って、、」
虎徹も名乗りでた。「拙者がもう少し下に降りてからパワーで、、」クラウンは話を聞きながら自信なく言った。「僕は遠過ぎて当てる自信ないや。」

「討伐対象なんだ。私がやるわ。」小夜は弓を背中から抜いた。3人は小夜を見た。

車まで50m以上ある。アードウルフは車の中を覗いている。小夜は葉っぱを拾って高台から落とし風をみると、自然体で立って弓を構えた。

アードウルフがポケットを探り、ディスプレイを立ち上げようとした瞬間、小夜は矢を放った。

矢は大きく逸れて飛んた。3人は外れたと思った。

矢は放物線を描き、風に乗ってスピードは増し、アードウルフの脳天に突き刺さった。バスン!小夜は見事当てた。

「おおっ!」と3人は声をあげ、小夜に賛辞を送った。

「どうやったら遠くに当てられるの?」クラウンは小夜にたずねた。

「明日、狩猟の日だから教えてあげよっか?」

「うん!教えて!」クラウンはわくわくした顔で返事した。

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翌朝、クラウンとハニはエーデルワイス砦に来た。

砦の外に出て、練習用の的をいくつか吊るしながらクラウンは小夜に話しかけた。「今日はよろしくお願いします!近い所はさー、補正機能が働くから命中するけど、遠いと外れちゃって。」

「気合い入ってるね。よし、昨日くらい的から離れてみよう。」

クラウンと小夜は的から離れた。

小夜がアドバイスした。
「気合いで力んでるから、力まずに自然体に立ってみて。遠くを狙う時、少し上向きに。鳥差しっていうのよ。」

クラウンはアドバイス通り、手を少し上向きにした。「ロージー!」バン!

「あーー、だいぶそれちゃったー。」

小夜が木箱を持って来た。「体がねじれてる。座って撃ってみて。」

クラウンは木箱に腰をかけて構えた。
「ロージー」バン!
「うわ!当たった!」クラウンは小夜とハイタッチした。

「あとね、あとね、走ったりする時の命中率も上げられる?」クラウンは興奮気味に小夜に聞いた。

「それなら、片足立ちで撃つ練習してみたら?」

小夜は片足を横に少し開いて浮かせて見せた。
クラウンは真似をして撃った。
「ロージー、おっと!」バン!
ぐらついて、的には当たらなかった。

「もう一回。」小夜が声をかけた。

クラウンはうなずいて、静かに片足を上げて撃つ。「ロージー」バン!
「当たったー!」
クラウンは半回転して片足立ちで撃った。
「ロージー」バン!
「やった!できたー!ハニー、見てた?」

ハニは監視塔から両手を振って丸を作った。
ハニからコール。
「今、5発撃ったよね?スタミナついたね。おめでと!」

クラウンは小夜とハイタッチした。
「小夜さん、ありがとー!」

「胴造りとかアルテミス白書をダウンロードして練習してみて。」

クラウンはすぐ検索した。「これ?」

『アルテミス白書』
ー弓の資格を持つ者は狩猟、防衛、討伐に弓を使う事ができる。ー

「そう。ギルドはこの国で狩猟は許されてないから、今日は私について来て見学する?」

「うん!行きたい!」

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小夜はクラウンとチョコを連れて、コーヒー農園の先の森に入った。弓のコツを実際に見せながら解説した。

2時間後、小夜はオリックス2匹を仕留め、クラウンはカートを引いて戻って来た。

小夜は猟師小屋で祈りを捧げ、手際良くオリックスをさばいた。

夕方、農園のみなとハニも一緒に肉料理を食べた。

「なんだか、今日はすごく充実した日だった。」小夜は焚き火を見ながらハニに話しかけた。

「みんなお肉料理すっごく喜んでたね。美味しかったー。ありがとう。」

「自分が少し良いって思える、こんな気持ちはなんて言うんだろうね。」焚き火がパチパチ、ゆらゆら、小夜の少し嬉しそうな顔を照らす。

「自尊心かな。あってるか調べてみて。」ハニは笑顔で言った。

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数日後ー。
エーデルワイス砦。

ブラストは挨拶した。
「はじめまして。ブラストです。」
小夜とブラストは握手した。

「小夜さんを助けた時に協力してくれたんだよ。」クラウンは言った。

「ありがとう!みんなが力になってくれて頼もしいわ。」小夜は耳に髪をかけた。

「じゃあ、解脱の門に出発するよ〜。みんな乗って〜。」ヴァルは運転席から声をかけた。

みなキャンピングカーとカエサルに乗り込んだ。

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続く。

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