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トレモロ 2巻 2章 5話

「お前らそろそろ働け!」汗をかいたブッチがガレージに現れ、ガレージでゴロゴロするクラウン達に言い放った。あれから1週間経っていた。

「えー?虎徹のバイクがまだ届いてねーんだよ。」スノーはゴーストとソファーに横になったまま、ゴーストを撫でながら言った。

「拙者のバイクを置いてはいけぬ。」
積み上げたクッションの上で胡座になった虎徹は腕組みして言った。

ガリレオ氏のクエストは高額報酬で、先日の「行方不明のギルドを捜索」では各自1500クレジット手にしていた。

その報酬で虎徹はアドベンチャーバイクを購入した。納車が遅れているようだ。

「一回クエストチェックしにサイプレスに帰る?僕の部屋行かない?」
クラウンはソファーで寝ていたが、だるそうに立ち上がった。

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サイプレス号。

クラウンはマザーに聞いた。「マザー、リフレッシュできてー、自由に遊べてー、楽しくてー、みんなにとって良い所なーい?ついでにクエストも軽いのなーい?」

「シシッ!そんなのねーよ。」スノーはイスに座った。

ー全員にとっての良い所に絞ってクエスト検索します。他者の幸せを願う、素晴らしい考えです。ーマザーはクラウンを褒めた。

虎徹は興味深々、イスの上で正座して、目を閉じて待った。

ーみつかりました。プロキシマケンタウリbの期間限定のクエストです。白夜と極夜の星です。ー

「夢詰め込んでみるもんだね〜。」ブラストは感心した。

ハニは「白夜、、あっ知ってるー!この時期なんだ。バカンス〜!」白夜と聞いて1人両手を挙げて喜んだ。

「マザー詳細教えて!」クラウンは元気な声で言った。

ーはい。生物観察のクエストがお手軽です。フェスティバルに参加するクエストもあります。夜通しサイクリングやスイムも楽しめます。湖にはペットロボ専用のペットランがあります。クエストの推奨レベルはありません。究極の自由を満喫できます。目的地に設定して向かいますか?ー

「イエー!」みなテンションが上がり喜んだ。

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夕方、ブッチは軽口を言いながら、虎徹のバイクを納車した。「じゃ、また面白いもんみつけたら頼むな!」ブッチは手を振って、みなを見送った。

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ジュピターステーションを出発した。到着予定は4日後。ハニのガレージでロックを聴きながら虎徹、スノー、ブラストはバイクをいじりながら過ごした。

クラウンとハニはパンケーキやフレンチトーストなどお菓子作りをして過ごした。ハニはお菓子作りが下手だった。お菓子作りに行き詰まる度にレモンキャンディーを食べて気を紛らわした。

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4日後。
サイプレス号にアナウンスが流れた。
ーまもなくプロキシマケンタウリb、ケンタウルス・ステーションに到着します。現在は白夜です。フェスティバルはすでにスタートしています。ー

プロキシマケンタウリbに到着した。5人と2匹はドックに降りた。大自然が広がっている。

「今って夜中なの?全然明るいね!宇宙と逆だね。」クラウンは夜中でも明るい空が不思議でならなかった。

「コテージエリアに行って、チェックインとフェスティバルにエントリーしよ!」ハニはバカンスに来れて嬉しそうだ。フェスティバル行きの窓のない回遊バスに乗って向かった。

クリスタルドームが並ぶコテージエリアについた。広いドームは周りからは適度に離れ、プライベートも保てるデザインになっている。

手続きをハニとスノーで済ませた。クラウン達は生物の観測クエストの為、水中に定点カメラを設置しに湖に出かけた。白夜の期間、特定の生物を観測するクエストだ。

クラウン達は水中に潜り、観測対象の生物を見つけた。直径10m程のピンクの珊瑚が一面に広がり、その周りを囲うように定点カメラを6台設置した。

ディスプレイで観測対象を探しながら、みな夜通し泳いだ。

クラウンとブラストはシーリーフドラゴンを見つけた。ログに残し、レア生物の観測にも成功して大興奮した。

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休憩所で焚き火を囲んでくつろいだ。

「海とも繋がってる湖だったね。」クラウンはまだ興奮冷めやらない様子だ。

スノーはディスプレイを見ながら言った。「クラウン、近くに湖がもう一個あって、ペットランがそこにあるから連れて行ってやるか。」

「うん。行こう!チョコ〜良かったなー。」クラウンは濡れたチョコをタオルで拭きながら言った。

クラウンとスノー、犬達は準備して、もう一つの湖に向かった。

残った3人は焚き火を囲み、まったり過ごした。パキッ、パチ。時々、焚き火は爆ぜた。自然とお互いの事を話した。

「ブラスト、スカーレットにキレてなかった?あは。」ハニは笑った。

「キレてないよ。まあ、なんか鼻についたかな。」ブラストは、ぼそりと本音を言った。

「私もあーだったなー。なんでも1人でできるって思ってるんだよね。」

「ハニ殿が?」虎徹は意外という顔をした。

「そう。アースに行って、まごろくさんに会って『任せる勇気が必要や。』って教えてもらったの。まごろくさんってすごいよね。」

ブラストは大きくうなずいた。「マジすごいよね。オレのアビリティの事もアドバイス合ってたし。水の上でやると嵐が起こるって。」

虎徹とハニは大きくうなずいた。

「前から思ってたけど、虎徹さんは、まごろくさんの事はまごろくって呼ぶんだね?」ハニは気になっていた事を虎徹に聞いた。

「ああ。まごろくは拙者より1年後にHOMAREに入ったから、年上でも拙者の方が兄さんとなる。古き習わしです。ただ、まごろくに兄さんと呼ばれるのもこそばゆいから、虎徹と呼べと言いいました。」

「へー。それで兼定さんには兄さん、まごろくさんは名前で呼ぶんだ。」ブラストは納得した。

「そういえば、まごろくは自然学に長けていたなー。」虎徹はしみじみ言った。3人はアースを思い出した。

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クラウン達はペットランについた。
アナウンスが入り口で流れた。
「[ペットの休日]にようこそ!ペットロボ専用のオープンエリア、森と湖はペットのみご利用できます。」

クラウンとスノーは券売機でチケットを買って、犬達をオープンエリアに入れた。
2匹は1度振り返ってしっぽを振り、森の中に仲良く走って行った。

クラウンとスノーは手を振って見送った。オーナーラウンジで暖炉を囲んでまったり過ごした。モニターにはペットロボ達が自然の中で自由に過ごす姿が見れる。

クラウンとスノーにとっては犬達の様子をモニターで見るのは初めてだった。飲み物を頼んでモニター席に座った。

モニターのチョコとゴーストは森を楽しそうに弾んで駆けている。2匹はだんだんスピードを上げて森の木々の間を駆け抜け、湖に着いた。

湖の水を飲んだチョコとゴーストは、てくてく歩きだした。湖の辺りにペットロボの好物のフルーツの木が繁っている。ジャンプしてフルーツをとり、ムシャムシャ。始めは交互に取り合っていたが、ゴーストが助走をつけて木に体当たりした。ボトボトボト。体当たりで木を揺らしフルーツを落とした。チョコは落ちたフルーツを食べた。チョコもかなり助走をつけてジャンプして木に体当たりしたが、枝に弾かれて、ぴょーんと飛ばされて湖に落ちた。
バシャーン!
クラウンとスノーは爆笑した。

ゴーストは顔を上げ湖に飛び込み、チョコの方に泳いで行く。

ワン!ワン!チョコとゴーストの吠える声が聞こえ、追跡ドローンカメラが水面を飛ぶ。

ドローンカメラが追いつくと、水面に黒くうごめく姿が見えた。30kg程の巨大な黒い出目金魚にチョコが追いかけられている。必死に犬かきで泳ぐチョコの後を、出目金はフリフリ泳いでいる。チョコからはプリズムが出ている。クラウンとスノーは前のめりになった。「シシッ。デッケー。」「チョコ逃げてっ。あれ?光ってる?」

ゴーストがチョコに追いつくと、出目金は口をぱくぱくしながらジャンプしてチョコに体当たりした。チョコは上から巨大な出目金に乗られて沈んで行く。

ゴーストは尾ひれを咥えて、首をぐいっと引いて泳いだ。出目金がバシャバシャ水飛沫をあげて暴れ出した。空が曇り、雷がゴロゴロ鳴った。

「行け!ゴースト!」スノーはモニターを見ながら応援した。
チョコが水面に顔をあげて、出目金の胸ビレを咥えて必死に泳ぐ。

口をぱくぱくしながら出目金は跳ねて、今度はゴーストの上に体当たりした。ゴーストはお尻だけ沈み、前足でしっかり泳いだ。出目金はフリフリ身をよじり、横向きになってもゴーストの上にさらに乗ろうとした。

チョコは出目金のしっぽを咥えて引きずり下ろした。ノロノロと泳いで向かってくる出目金に、2匹は前足で出目金の顔を叩いたり、両足で突っぱねたり、じゃれてるのか、暴れているのか、モニターを見ていた他のオーナー達もチョコとゴーストを応援しはじめた。

「いいパンチが入った!」「がんばれ!」

チョコの後を出目金は大きな口をあけて近づき、ついにチョコの後ろ足をパク!雷鳴が響いた。バリバリバリ。

チョコは身をよじり抜け出そうと泳ぐ。ゴーストが出目金の頭を両前足で突き飛ばし、エラの所にガブリと噛み付いた。出目金はバシャバシャ暴れ、チョコは抜け出し、岸に向かって泳いでいった。

「チョコがんばれー!」「ゴーストいいぞ!」
モニター前に歓声が上がる。

無事にチョコは陸に上がり、ぶるぶるぶる。
ゴーストが出目金を咥えながら近づくと、チョコも出目金に噛みつき、陸に引きずり上げた。

モニター前は拍手に包まれた。

「ああーあらら?ワンちゃん達は無事そうですね。良かった。すみません、支配人です。」モニター前に駆けつけた支配人は気まずそうだ。

「ヤバ、巨大魚仕留めちゃった。」クラウンも一気に気まずくなった。

「いえいえ、それは大丈夫です。むしろ感謝しています。その装いはギルドの方々でしょうか?」

「あ、はい。」

「少しお待ちください。」

支配人はモニター前に集まったペットロボのオーナー達に声をかけた。「皆様、お騒がせしましたが、ギルドの皆様のご活躍で平穏が戻りました。お詫びにドリンクをサービス致します。お好きな物をご注文頂き、お寛ぎ下さい。」一礼してクラウンとスノーの方を向いた。

「さ、こちらへ。カートでワンちゃん達をお迎えに行きましょう。」
支配人に関係者通用口に案内された。
カートに乗るとスノーが支配人に聞いた。
「でっかいやつ、出目金魚ですか?」

「そうです。通称、出目金魚。本当は金魚とイカズチナマズの交配種です。生態系破壊種の為、駆除対象なので助かりました。外来種で天気を狂わせる厄介なやつなんです。誰かがこの湖に放したんでしょうね。」

モニターで見ていた湖に着いた。
犬達はまだ出目金の近くで見守っていた。

「ゴースト!」スノーが呼ぶと気づいて、2匹とも元気そうに駆け寄った。2人は犬達を撫でた。

支配人に頼まれ、出目金をカートの後ろに3人で乗せた。ずっしり重かった。

チョコが光って見えた気がして、クラウンは支配人に帰り道たずねた。「あの、この魚ってストーンありませんか?」

「はい。ありますよ。雷涎香[らいぜんこう]というストーンです。ラボで取り出せますよ。記念にいりますか?」

「ありがとうございます!お願いします。」

ラボで雷涎香を取り出した。
支配人は慣れた手つきで、雷涎香を乾燥室に入れた。しばらくして大理石柄の丸いワックスが出てきた。甘い土の香りがした。

「エレメントストーンか!シシッ。」
スノーは雷涎香を嗅ぎ、犬達にも嗅がせていた。犬達は嗅ぎまくる。

クラウンはログに保存した。検索すると、気候条件が揃えば、雷雲のクリティカルヒットの効力があるエレメントストーンだった。適応はブラストと表示された。

クラウンはチョコを抱き上げた。
「チョコ、サイコー!よしよしよし。」クラウンはチョコを撫でた。

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湖の辺りで虎徹は飛翔を使って跳ね回り、ハニはタクシスで虎徹を掴んで、湖に軽く投げ飛ばした。

バシャーン!虎徹は湖に落ちた。「ぶはっ!」

ブラストは手を叩いて笑った。
泳いで戻ってきた虎徹は、タオルで体を拭きながら目を輝かせて言った。
「やはりハニ殿は以前より素早く技が使える様になってますよ。」

「さっきの虎徹さんは結構早かったよ。」ブラストはうなずきながらハニを見た。

ハニは2人に言われて嬉しくなった。「操作性がちょっと良くなった気がしてたけど、素早さが上がったのかな。免許の勉強した時、集中力が上がったかも。」

ハニの才能は開花し、素早くタクシスを使える様になった。

虎徹はタオルで髪を拭きながら言った。「文武不岐[ぶんぶふき]ですな。」

クラウン達が嬉しそうに手を振りながら戻ってきた。

「なに、なに?嬉しそうじゃん。」ブラストはクラウンに聞いた。

クラウンはブラストに雷涎香を手渡した。「え?え?オレに?」

クラウンは何も言わずに何度もうなずいている。
「マジで?エレメントストーン?」

クラウンは、ただうなずいた。

「ちゃんと言ってやんねーと、ブラストがパニックになってるだろが。シシッ。」スノーが見かねて事情を話した。

ハニが「[ペットの休日]のサイトに動画ログのサービスあるよね?みんなで観よ!」スノーがディスプレイを出してみなで鑑賞した。犬達もじっとみていた。

ブラストは2匹を両脇に抱え、褒めまくった。「チョコちゃんスゴイ!ついにみつけてくれたんだ!ありがとう!」なでなで。「ゴースト最強!ナイスパンチ!ありがとう!」犬達はご褒美のおやつをもらって大喜びした。

焚き火を囲んで語らって、いつの間にか寝た。いつ目が覚めても空は明るく不思議な気持ちになる。木陰の下が心地よく、みな時間を気にせず過ごした。

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生物観測の定点カメラをディスプレイで時々、チェックしながらクラウンはブラストとアイスクリームの行列に並んでいる。

「3日目、変化なし。」クラウンはディスプレイを閉じた。

「クラウン、フェスティバルになんかでないの?」

「僕、ずっと観測で参加してるよ?ブラストは?」

「じゃ、オレもそれだな。」

アイスクリームを食べながら話は続く。

「ピスタチオうっま。スノーと虎徹さん、今夜のケンタウルスカップにでるって。」

「応援行こー!ベリーもうまいよ。」

「ハニは?まだ寝てるのかなー。」

「今日はベリー摘みに行くって。」

「そうゆーの好きなタイプだっけ?はは。」ブラストは笑った。

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続く。

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