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『ぼくらは鉄鎚しか持たなかった』後書きと参考文献一覧

https://kakuyomu.jp/works/16818622176007168366
 ナツガタリに出すはずが、心身と身の回りのトラブルでそれどころではなかった本作ですが、ようやく完結させられました! やったぜ!
 今回は「学園ホラー」ということで、「令和の高校を舞台にしよう」というのが一つの目標でした。それで調べてみると、お昼ご飯代をPayPayで渡す、家族専用Discordサーバーがある、などなどが出てきて気分は浦島太郎です。
 また、作中の呪術は両部神道を参考にしております。
 別名を両部習合神道とも言い、山王神道(天台宗の影響を受けた神道)や真言宗など、密教と合体した神道とでも思ってください。ちなみに厳島神社の大鳥居ように、足元が四脚タイプの鳥居は「両部鳥居」とも言い、案外と身近なものです。
 今回も読まれたい~、感想欲しい~と煩悶していたんですが、星とPV比からするとかなり評価されているので、イェーイ、応援されてるうー! Wぴーす! と感謝の気持ちをここに記します。

【参考文献一覧】
■学校関係
『飛び出せ高校生!vol.3 高校生しなくてもいいこと 学校、友だち、自分に悩むあなたへ』旺文社
 現代高校生に多い悩みについて、「そんなことしなくてもいいんだよ」と答える本。そんな上手く片付いたら苦労しないよ、というのはさておいて、今の子も基本的な悩みはあまり変わらないんだなあと思えました。
「自分の性に忠実でいい」と、LGBTにも少し紙幅が割かれているのが、令和を感じさせますね。

『高校生活の強化書』西岡壱成・萩原俊和(東京書籍)
 勉学、部活、人間関係。いかにして充実した高校生活を送るか? というガイド本。これも高校生ならではの悩みが概覧できる一冊。「ChatGPTで作文を書くという課題を出した」って記述があったのはこの本だったかな?
 読んでいると、我が身を振り返って少し(かなり)耳が痛いのが欠点。

『月刊高校教育増刊 教師の話し方・例話講座2025年度版』学事出版
 11話で赴任してきた赤口が言ったスピーチの原典。
 見ての通り学校教師向けの雑誌。行事ごとに教師がこなすスピーチの例文が載っています。生成AIについても触れられており、職員会議での校長挨拶を生成した文章などもありました。

『休み時間の過ごし方: 地方公立中学校における文化とアイデンティティをめぐるエスノグラフィー』團康晃(烽火出版)
 ある中学校をモデルに、「休み時間」の過ごし方に注目したエスノグラフィー。
 2016年に描かれた論文を元にした書籍で、その論文がまた00年代の調査を反映しているので、令和の状況にどこまでそぐうかは残念ながら疑問が残りますが、教育業界は回転が速いので、どうしても難しい……!(例えば「読書する子が意外と多い」という話は、調査時はケータイ小説が大流行していたので、書籍版を学校で読んでいる生徒が多かったため、など)。

『ネットいじめの現在:子どもたちの磁場でなにが起きているのか』原清治(ミネルヴァ書房)
 めっちゃ面白かった本。
 21年出版で、令和の子どもたちのネットやいじめの関係性について述べたものです。ネットいじめは何パーセントか、ネット以前のいじめの形態、パソコンやタブレットの所持率、高校生がよく読む雑誌の割合など興味深い統計が盛りだくさん。
 とあるいじめが、ドラマで描写されたことで同じ手口が爆発的に広がったという話もあり、難しいなあという気持ちにさせられます。

『イラストレーターのための背景資料集 令和の学校』かさこ(ホビージャパン)
 タイトル通り、令和の学校写真がたっぷり収められた資料です。
 トレス・ダウンロード可1300点だそうで。下記の学校萌えは白黒ですが、こちらはフルカラーなのもポイント。
 学園物にしたものの、思ったより学校のシーンが少なかった本作ですが、必要な時はこちらと下記の二冊を観ながら登場人物の動きをイメージしました。

『背景画のプロに学ぶ今どきの学校の描き方 MAEDAXの学校萌え!!』MAEDAX(エクスナレッジ)
 こちらはイラストオンリーの作画資料本(巻末に、イラストの元になった校舎の写真と学校紹介もあります)。
 平成と令和の学校それぞれを並べて差異を説明し、「なぜこの施設はこうなっているのか」「こんな小物もあるよ」と解説してくれる所がとても親切です。
 上の背景資料集はひたすら写真がまとまっているのですが、こちらはぱっと見だけでは分からない細かな点まで説明してくれるので本当に便利!

■呪術関係
『呪術の本 禁断の呪詛法と闇の力の血脈』/学研プラス
 いつもの。

『呪術探究 巻の2 呪詛返し』呪術研究編集部/原書房
 呪詛返しの詳しい歴史や、呪詛とはそもそも何かというお話が読める本。上の学研の本と出版時期が近い(04年と03年)ので、当時のオカルトブームの影響がうかがえますね。残念ながら三巻+増補版で終わってしまっていますが、充実の内容。

▼八幡書店さまの本
『神通力修行の秘伝/神拝祭式加持祈祷神伝』
『祈祷禁厭神占宝典』
『神仏秘法大全』
『神道祈祷全書』
『神術霊妙秘伝書』
 明治や大正のころ出た霊術本を、そのままペーパーバックに印刷したシリーズ。
 八幡書店さまはこういうオカルトなものを扱っているのですが、中でも今回は「両部神道」の本をチョイスしました。
 小野不由美先生の『ゴーストハンター』シリーズから、他の呪術本、おまじない本、『日本呪術全書』まで、それに出てくる術の元ネタがだいたい詰まっています。
 ただ、明治大正の古い本をそのまま写したとあるように、漢字は全部旧字体だし、カタカナのふりがなついているけどかすれているし……と読むのが大変なので、これを種本にした後発の呪術本の方が扱いやすい面も。
 栄太郎が呪詛の時に唱えていたものは、「不動明王生き霊返し」をベースに、これらに載っていた呪文を借りたりアレンジしたり、またはまったくのオリジナルの文言を入れました。一方、先生の方は「解除祈祷祝詞」「白狐神言」などをそのまま使用しています。

『祝詞用語表現辞典』土肥誠(戎光祥出版)
 いつもお世話になっている戎光祥出版さま。一般の祝詞は国家神道のそれなのですが、今回の両部神道はそこからパターンが外れます。祝詞表現が微妙に違う!
 私も両部の方は初めてなのですが、「これってあれじゃないか?」と思ってこちらの書を参考すると、「ああ、この表現が両部だとこう変わるのか」と検討がついて、何とか読み仮名を振ることが出来ました。マジ印刷かすれてて分かりづらい。
 以下は解除祈祷祝詞(16話)と、一般の祝詞の見比べです。
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・嚴(いづ)の
 →巌(いつ)/稜威:神聖、いみ清められていること。勢いの激しいこと。
・阿登茂ひ率ひ(あともいひきい)
 →率ふ(あどもう):かけ声をかける、ひきいる、引き連れるのこと(推定)。
・十六自物伊這ひ拜み(ししじもの、いわいおろがみ)
 →鹿自物膝を折り伏せ(ししじもの、ひざをおりふせ):
 「しし」は鹿やイノシシなど食肉獸のこと。これら獣のように膝を折り伏せることで、拝礼して敬うさまを表した言葉。「おろがみ」は「拝む」の祝詞表現。
 「伊這ひ」も「いわい」で祝いのことと思われる。
・賤(しづ)の
 →垂づ:たらす、たれさがる。後の文脈から、漢字が違うがこちらの意味と思われる。
・五百箇眞賢木の(いほつまさかきの)
 →五百枝の真榊(いほえのまさかき):枝がさかんに生い茂った榊のこと。
 「いほえ」と「いほつ」でどっちが正しいか頭が痛くなりました。
・懇(ねもごろ)に
 →懇ろ(ねむごろ):古くは「ねもころ」とも。両部神道では、現代と古形の中間らしい。本書のおかげで読みが確定できて助かりました。
・左男鹿の耳振り立てて
 →吉田神道、吉田流「禊祓詞」に登場する語。
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■番外
 作中の、写経する→起請文を書く→起請文を焼いて灰を飲む→藁人形に釘を打つ、という手順はとある呪術本が元になっております。
 ただ、この本は「本気で人を呪おうと思っている人のための本」であり、「誰かを呪い殺したいほど憎悪している人は、呪いという方法で発散した方が本人のため」と、(覚悟さえあれば)どんどん呪いなさいと推奨している本です。
 また、「自分が呪いを行っていることを知っている人間が自分以外になければ呪詛返しも受けない」とあり……ちょっと倫理的に、人にお勧めしたくない一冊です。
 個人的な話ですが、私自身は洗礼を受けたプロテスタントのクリスチャンであり、オカルト本や呪術本をどれだけ仕入れても、実践することは決してありません。
 作中で呪いの呪文がオリジナルにアレンジしてあるのも、起請文が熊野権現ではなくオリジナル神のオリジナル護符なのも、私の倫理的拒否感からの都合です。
 参考文献として名前を出すべきなのでしょうが、この場では「本作の呪詛手順には原典があります」と書くことに留めさせて下さい。
 人を呪わば穴二つ、他人を呪うとは、自分を呪うと同じことなのです。

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