12月1日から『カクヨムコンテスト11』が始まりますね! ご応募作はご用意できていますか? 永遠くらい長い各種選考期間を耐え抜く覚悟は? 最終選考を突破した後の第一声はどうしましょうか? 応募しないわたくしももうドッキドキでございますよ! 動悸の激しさの余り年波的に急病起こしそげで、それもまたドッキドキですけれどもね。
 さてさて、わたくしエンタメ総合部門で特別審査員を務めさせていただくことと相成りました。こちらにご応募予定の方々へこっそりと審査基準をお伝えしておきますれば、「ネタ(設定)を生かしたストーリーが構成されているか」と「いいキャラクターが仕上げられているか」、そして「物語がおもしろいか」、この3点です。
 まあ、当たり前のお話ですし、みなさまも耳タコというものでしょうが、あらためてご留意いただけましたら幸い!!
 と、勢いでごまかしつつ、今月は金のたまご回です。思わず「お、おもしれぇ」と感じ入ってしまった4作をご紹介いたしますので、どうぞみなさまも共感・共鳴していただけましたら。何卒よろしくお願いいたしますー。

ピックアップ

どこへも行かない妖怪とどこかへ行きたい旅人が出遭った話

  • ★★★ Excellent!!!

 入学した大学へ行かず、公園のベンチに座って過ごし続ける青年、葛和田日鷹(くずわだ ひだか)。未来への不安を抱えつつもただ人生をやり過ごして――いくことにはならなかった。突然現れた不可思議な少女、自称旅人のクッキーと関わってしまったせいで。

“クズ”を自認した日鷹さんは「クズだからダメでいい」という、ある種の安寧を得た青年です。ガキ臭さを激烈に抉らせた人物像ですが、反感ではなく共感を覚えるのですよ。私自身、青春時代に正しい成功体験が積めずに抉らせたおじさんなので。そしてだからこそ、クッキーさんに苛立つわけです。彼女は常にパワフルで楽しそうで前向きで、どこかへ行きたくて必死です。どこへも行かないことに必死な日鷹さんの対極存在なのですよね。この対比が本当にすばらしい。

 で、そんなふたりが綴るドラマはやっぱりままならなくて……でもその紆余曲折こそが、辿り着くエンディングのすっきりとした心地よさを映えさせるのです。

 際立ったキャラクターが魅せる深煎りテイスト、ゆっくり味わってください。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

次代辺境伯が夫に求める第一の条件、それは生き延びること!

  • ★★★ Excellent!!!

 バルベ伯爵家令息であり、第三期士団に所属する騎士レオはまさに貴公子である。親友の茶会で初めて会った彼に一目惚れしたと突然求婚され、辺境伯家令嬢にして次代領主のジネット・ベルジエは面食らいつつも心を貫かれてしまったのだが……始まりかけの恋物語の裏には怪しい動きも垣間見えて。彼女の恋はいったいどうなってしまうのか?

 ジネットさんはご令嬢というだけでなく、魔獣討伐を任務とする辺境伯家の跡取りです。強い戦士であるだけでなく、領土を守る貴族でもあるわけですよ。舞台が学園ならば恋物語も普通に語れるわけですが、個人の恋愛を家に関わる案件として真っ向から取り上げ、しかも物語の芯として通してしまう構成力。相反する両者をもってドラマを鮮やかな緊迫感で引き締め、且つ鮮やかに彩る筆力。これにはもう唸るよりありませんでした。

 さて、ジネットさんは同じ時を過ごす中でレオさんに惹かれていって、そのまま……とはならないのですよねぇ。一筋縄では行かない物語はどこへ向かうのか!? 顛末は本編でご確認くださいまし。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

5年前、2年前、先月、3つの殺人事件が繋ぐただひとつの真実

  • ★★★ Excellent!!!

 捜査一課に所属する刑事で姉の盟(めい)から極秘の捜査協力を切り出された悠一(ゆういち)。姉は先月起きた女子大生殺人事件の犯人が彼の通う大学の生徒であると見ており、5年前と2年前に起きた殺人事件にも関わっているものと考えているのだ。果たして悠一は姉に協力することとなったのだが……

 倒叙(とうじょ)ミステリーとは、犯人や犯行が開示された状態で始まるものを指します。それだけに登場人物の心情をどれだけ濃密に表せるかがひとつの肝になるのですが、本作の魅力はまさにそこ。キャラクター造形と描写がすばらしいのです。犯人である“カナ”さんが犯人と成り果せるまでの過程――人格形成がストーリーにしっかり敷かれている。だからこそ読者は彼女にひとつの共感を覚えますし、探偵役の悠一さんの紆余曲折や直面する悲哀に心を掻き乱されずにはいられません。そして真相を知らされた瞬間! これまで積んできた感情のすべてを打ち砕かれるのです。

 骨太な人間ドラマが織り成す極上の本格ミステリー、「最後の最後まで」どうぞお楽しみください。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

これはただの散策ではない、唯一無二の冒険である。

  • ★★★ Excellent!!!

 本エッセイは蓬葉 yomoginohaが休日に目的地へ徒歩で向かう中で体験したこと、そして体感したものの記録である。

 なによりもまず内容の細やかさと濃やかさに驚きました! 著者さんは普通の散策を飾り気なく、それこそさらりと綴っています。だというのにこれがものすごく起伏に富んでいておもしろいのですよ。

 なんでもないことから「なにかある」を見つけ出すのは非常に難しいことです。それをその人ならではの視点で見極め、「なにか」を掬い上げていくのはさらに難しい。本作はそれをページがいっぱいになるまで掬っているだけでなく、著者さんならではの視点で表現している。だからこそです。なんでもないはずの散策が旅として成立しますし、出遭った物や事への著者さんの心の動きが刻み込まれ、あるいは浮き彫られることで、旅はひとつの冒険へと昇華しているのですよね。

 日常の片端を冒険する中で見出した非日常の記録、読めばあなたもなにかを見つけに歩き出したくなること間違いなしですよ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)