今月は注目ジャンルとなっております『中学生』をメインテーマにさせていただき、それらの作品を象徴するワードを【】つきでご紹介!
 中学生といえば小学生よりも責任が問われるのに高校生ほどの自由はない、まさに狭間の年代ですよね。ただ楽しいばかりではありえないし、いられない。だからこそ主人公たちが遮二無二に生きる様や、だからこその難しさに思い悩む様が楽しめるわけです。
 ちなみに私の中学校時代ですが――思い出したくないですねぇ。まあ、そんなものですよね。歳を取れば取るほど当時の幼さが痛ましくなってしまいますから。もっとも今となってすらあまり心根が進歩していないので、痛ましい記憶なんて直近にいくらでもあるんですけどね。
 なんだかうら寂しい感じになってしまいましたが、中学生主人公ならではのドラマ匂い立つ逸作群、どうぞお楽しみくださいー。

ピックアップ

【中学生×青春!】語られるものは少年が過ごしたかけがえのない3年間!

  • ★★★ Excellent!!!

 中学校に進学した桑谷陽佑は特になにもない中学生活を送っていた――はずだったのだが。クラスメイトと出会い、その中で梅原志緒と出逢って、特になにもないながら宝石のような中学生活を駆け抜けていく。

 陽佑くんは目立つタイプではないごく普通の少年。でも、周囲をよく見て、誰かのために動ける男なんですよ。そんな彼の人柄がじわっと他のクラスメイトへ染み入って、関係性ができていく。学生社会においてもっとも大切な人の輪が作る和というものがあればこそ、派手派手しい事件はなくとも分厚い人間ドラマが完成していて、味わわせてくれるのです。

 おっと。そこへ陽佑くんの恋愛という彩が利かされ、成長劇の軸となっている点も見逃せません。ここでも志緖さんが好き!! とならず、きちんと彼や他キャラの心情を交錯させるエピソードへと昇華されていて、感心するよりありませんでしたから。

 概要に添えられた『――あの頃の同級生たちに、感謝をこめて。』の一文を象徴とした中学生物語、滋味深いキラキラが摂取できることを保証いたします。


(「中学生×○○!」4選/文=髙橋剛)

【中学生×スポーツ!】憧れの選手を追い、少年は強豪チームへ飛び込んだ!

  • ★★★ Excellent!!!

 弱小少年野球チームを引っ張ってきた井原友樹は、強豪遠園リトルシニアの守備走塁コーチの浅見からスカウトを受けた。家庭環境の問題から断ろうとする彼だったが、遠園の選手たち、なによりショートを守る選手の様に感銘を受け、一員となることを決める。

 リトルシニア(中学生硬式野球)をモチーフにした本作、主人公の友樹くんがすごいんです。ありがち――齢だけ少年で実際はただの大人――なキャラではなく、ちゃんと少年。野球への直向きさも家族や仲間への優しさも意外な芯の強さも歳相応で、しかもいいヤツ! 好きになりますよそれはもう。

 著者さんの確かなキャラクター造形力はチームメイトも個性豊かに綴っているわけですが、目を惹かれたのは家族やコーチといった大人たちです。中学生が全力で野球に向かえるよう支え、導く彼らの存在が端々に効かされていて。物語にしても主人公だけで成り立つものではないんだと実感させていただきました。

 スポーツの中にキャラ同士の関わりが光る、読み応えしかない青春ドラマです!


(「中学生×○○!」4選/文=髙橋剛)

【中学生×友情!】友達になった彼女は秘密を抱え込んでいた

  • ★★★ Excellent!!!

 落としてしまったおもちゃの指輪を必死で探す平松うたこ。それを見つけてくれたのは見知らぬ同学年生で、同じ指輪を持つ蝶野かすみだった。友達になりたいと言うかすみに不信感を抱くうたこだったが、彼女のやわらかで強いアプローチに調子を乱され、頑なな心を解いていく。

 人が友達と出会う理由なんてほぼほぼ偶然ですが、同じおもちゃの指輪を大事にしていたとなればもう必然ですよね。

 そうしてかすみさんに押し込まれ、なしくずしに友達付き合いを始めるうたこさんですが。彼女は心の扉を閉め、独りで過ごしてきた人です。その固く閉ざされていた心はかすみさんに侵食されて、気がつけば普通の友達みたいになっていて。なんでもない時間を共有できる友達のうれしさとありがたさが私の胸にも染み入ったわけですけれども! 突然突きつけられるかすみさんの真実が物語を急転させるんですね! このどんでん返しの巧さ、感心を通り越して憎らしいほどですよ。

 真実とはなにか? うたこさんはどうなってしまうのか? どうぞその目でご確認を。


(「中学生×○○!」4選/文=髙橋剛)

【中学生×哲学!】騙る少女と語る少年、ふたりの出会いが生み出すものは?

  • ★★★ Excellent!!!

 この世のすべてが“にせもの”と信じる中学2年生、スズ。いい人を騙るため風紀委員を買って出、役割を演じてきたのだが……ある日、歩き読書をする少年を見つけてしまう。注意しても反省しない彼と言い合うと、最後にとんでもない返事が返ってきて、打ち据えられて。それこそが不登校から復帰した問題児で、相棒となるケイとの出会いだった。

 痛ましさすら伴うスズさんのひねくれ具合が最高! これです。これこそが「中二」ってやつですよ。容赦ない筆で剥き出される主人公の有様だけでも悶絶必至ですけれども、さらに彼女は相棒と出会ってしまうのですね。別ベクトルで中二全開のケイくんと。

 そこからニヒリズムという暗黒面に迷い込むスズさん、綴られる物語もまた嘲笑と詭弁に満ち満ちた悲喜劇に――と思いきや、暗いトンネルの向こうへ突き抜けたかのような清々しい青春劇へと集約していくのです。いや、この構成力とストーリー性には打ちのめされましたよ!

 迷って悩んで苦しんで辿り着くカタルシス、ひと言で表せば極上です。


(「中学生×○○!」4選/文=髙橋剛)