特集
ゆで卵を最近よく食べます。夏バテで食欲がないときに、ゆで卵に塩をふりかけてごはんや間食代わりに食べています。栄養価も高く、タンパク質やビタミンミネラルも豊富な完全栄養食です。価格も安く、長らく卵は「物価の優等生」と呼ばれてきましたが、その卵の値段が近頃高騰してきているそうで、一時期の米の高騰のように卵も高騰しやしないかと気がかりです。先頃、行われた参議院選挙でも「物価対策」が議論の焦点になりました。現代で生活をする上で誰もが意識せざるを得ない問題が、「物価」というものでしょう。というわけで今回は、物価をテーマに人々の暮らしに根付いた物語をピックアップしてみました。日々の買い物、食卓のメニュー、そして家計簿の数字。あなたの毎日の暮らしとどこかでつながる、「物価」の物語。一緒に見つめてみませんか。ところで、KADOKAWAの文庫本も昔は500円で一冊買えた時代があったんですが、もうちょっと安くなりませんかね……。
13世紀初頭、神聖ローマ帝国の辺境の村に、若き司祭レオとして転生した主人公が、現代知識と卓越した弁論術を武器に貧困や悪政に苦しむ人たちを救っていく中世転生ファンタジーです。
高い教養と巧みな弁論術で難題を解決していくレオの活躍が見どころです。
レオが赴任したのは、貧困に喘ぐ地方の教区。人々は日々の生活に精一杯で、衛生や教育の概念すらほとんど浸透していない。そんな状況下で、レオは聖書の教えと現代的な知識を融合させ、村の暮らしを改善しようと奔走する。しかし、古い慣習や迷信に縛られた村人たちは、レオの言葉を素直に聞いてはくれない。
相手と議論で対立しても、誠意を持って根気よく説得を続ける姿勢が胸を打つんです。一方的に理屈を押し付けるのではなく、謙虚な人柄と、相手の感情へ訴えかける温かさがあるんですよ。
疫病から村を救い、修道院の経営を立て直し、貴族間の紛争を平和的に解決するなど、その功績はやがて中央にも届き、レオはローマ教皇の側近として取り立てられるまでに。
しかし、ローマに渦巻く利権争いと腐敗は想像以上に根深く、レオの改革は暗礁に乗り上げる。果たしてレオはこの壁を乗り越え、ローマにかつての栄光を取り戻すことができるのか。若き宗教家の知性と情熱が火花を散らし、暗黒の時代に光を灯す世直しファンタジーです。
(「物価の救世主」4選/文=愛咲優詩)
アルマティア王国の王女ララは、ある日、日本で主婦として暮らしていた前世の記憶を取り戻す。魔鉱石「ビス」の産出量が激減し、財政危機に瀕した祖国を救うべく、前世で培った節約術と家計の知恵を武器に、国家の立て直しに乗り出す――。
見た目は完璧なお姫様なのに、中身はベテラン主婦というギャップがユーモラスで魅力的です。
この世界では、部屋の明かり、水道、調理の火、食料を保存に至るまで、あらゆる生活インフラが「ビス」という魔鉱石のエネルギーによって支えられている。ララは経費削減を掲げて、まずは王城内の省エネを推し進める。お姫様が率先して無駄使いを取り締まることで、変化の波が一気に広がっていく様子が爽快です。
さらに幼い子どもを抱えて働く女性たちのための託児室を設けて、自ら保育係を申し出る。子どもに慣れた手際の良さと溢れ出る母性に、周囲はララを「アルマティアのオカン」と呼ぶようになる。改革を成功させるために、まず家計を握る主婦層の信頼を得るという戦略が見事です。
議会での堂々たる演説により貴族たちを説得し、ようやく国の再建に向けた道筋が見え始めた矢先、買い占めによる物価の急騰が持ち上がる。国民の家計を守るため、「オカン」が立ち上がる姿に胸が熱くなる。家計を支える主婦の努力、母親の深い愛情に改めて感謝を抱きたくなる作品です。
(「物価の救世主」4選/文=愛咲優詩)
ブラック企業で激務に追われていたOLが、異世界に転生した。没落子爵家の令嬢リリス・ラヴェンダーとなった彼女は、大好きだった卵料理を食べるため、節約料理と生活スキルで家計を立て直しに奮闘し始める。
女の子たちと協力してお金を稼ぎ、家族と一緒に美味しい料理を食べる光景がほのぼのとして和みます。
貴族でも貧しいラヴェンダー家にあるのは、塩や酢、小麦粉、干しキノコ、あとは庭に生えたハーブくらい。そんな限られた材料からリリスはお菓子やハーブ石けん、野菜の漬物などを手作りし、市場で販売して家計を支えていく。すべては愛する家族の笑顔のために。リリスのひたむきな想いに魅せられます。
市場での商いを通じて、農家や商家出身の女の子たちと出会い、"百合草の誓い"というサークルを結成。若い女の子たちが集まって、お菓子作りやクラフトを楽しむ様子が可愛らしくて読んでいて楽しくなります。
当初は自分たちのために始めた商売が、やがて市場を訪れる人々の暮らしにも小さな変化をもたらしていく――。節約料理で世界をちょっとだけ豊かにする、優しくて美味しい異世界ファンタジーです。
(「物価の救世主」4選/文=愛咲優詩)
農業スキルしか身につけられず、勇者パーティから追放された青年アルス。手切れ金として辺境の荒れ地を渡されたアルスは、そこで畑を耕しながら農家として再出発することに──。農業チートを駆使して、世界の社会問題を解決していく一風変わったスローライフファンタジーです。
自然に感謝しながら、困っている人々に食料を分け与えるアルスの誠実さが清々しいんです。
彼が持つスキル『畑耕し』は、植物の成長を加速させるチートスキル。野菜ならわずか一日で収穫でき、果樹も数日で実をつける。さらにイメージ次第で病気や寒さに強い奇跡の作物に育てることも可能。そんなチートスキルを活かし、貧しい人々の救世主となっていく展開が爽快なんです。
周囲から称賛と尊敬を集めながらも、アルスの暮らしぶりはとても質素で慎ましい。狭い小屋で寝起きし、贅沢をせず、怠けることなく、毎朝早くから鍬を握り、大地と向き合う。汗を流し仲間と共に収穫の喜びを分かち合い、心地よい疲れとともに一日を終える。アルスの生き方は、困っている人を救いたいという使命感と、大地への感謝に満ちている。チートスキルを持っていても決して驕らない、高潔な姿が素晴らしいんですよ。
どこの誰でも、どこの国でも、国家の垣根を超えて分け隔てなく施しを与えるアルスの行動が、やがて世界を一つに導いていく。人と人との結びつき、そして人と大地の繋がりの大切さを改めて思い出させてくれる作品です。
(「物価の救世主」4選/文=愛咲優詩)