予想変換が厄介だーというのはみなさまもご経験おありかと思います。私のような業務請負は「拝見いたしました」などという文言をよく使うわけですが、これがかなりの頻度で「佩剣いたしました」になるのです! 資料送ってくださった方になにを報告してるんだいーって思いますよねぇ。
 あと、私はl(エル)+母音を小文字の“ぁぃぅぇぉ”じゃなく“らりるれろ”に変換するよう改造しているので、「~している」とかをよく「~していりゅ」とかに打ち間違えます(uの左隣がyだから)。ぜんぜんエッチなこと書いてないのにね!
 まあ、なにが言いたかったかといえば、ここ数日連続で失敗してるので、文章って難しさとは別の面倒さがありますよねぇって思いましたってだけのことなのです。
 さて、今月は金のたまごということで、恋愛、現代ドラマ、ミステリー、エッセイ・ノンフィクションの4ジャンルから、あなたにぜひ出逢っていただきたい新作を選ばせていただきました! どうぞ一瞬だけでも暑さを忘れてお楽しみくださいませー。

ピックアップ

愛し抜いて苦しみ抜いた青年が決めたただひとつのこと、それは……

  • ★★★ Excellent!!!

 高校の入学式で“僕”が一目惚れした大河愛梨(たいが あいり)には、すでに好きな人――幼馴染みの柊健太(ひいらぎ けんた)がいた。それでも“僕”は在学中は諦めないと決め、卒業式当日、最後の告白でついにOKをもらって付き合い始めたのだが。互いに大学3年生となったある日、健太が付き合っていた人と別れたことがわかって……

 自分の彼女がかつての想い人の失恋を知って塞ぎ込む、彼氏としてはしんどいですよね。

 いえ、別に愛梨さんがおかしいとか悪いというわけじゃないのです。ただ、“僕”が入学式から卒業式まで丸3年愛梨さんに恋し続けてきた一途さは半端ないもの。そんな彼の想いが作中でしっかり提示されていればこそ、彼女のちょっとしたことに葛藤や疑念を抱いては追い立てられ、追い詰められていく彼の様――言ってみれば容赦のなさが胸に迫るのですね。そしてだからこそ。“僕”の決意に心を強く揺すられるのです。

“僕”へ共感を超えて没入してしまうこの感覚、ぜひ味わっていただきたく。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

35歳の社会人、中学校のブラスバンド部に加入する

  • ★★★ Excellent!!!

 ゴールデンウィークに帰省した唐澤進(からさわ しん)は、通っていた中学校が閉校すると聞き、ふらっと出かける。そして自分もかつて所属していたブラスバンド部の部員たち、さらには同じ部の同学年生で今の部の顧問である藤田美紀(ふじた みき)と出遭い……4人しかいない中学校のブラスバンドに35歳のおじさんが参加することが決まる。

 主人公は35歳の社会人なのですが、なによりも強く感じたのは「青春ものだな!」でした。舞台が部活だからではないのです。主人公がひとつの演奏を成すことを目指して真剣に部や部員と関わって、心を突き合わせて情を育んでいく――青春もの特有の気持ちよさを魅せてくれているからこそにです。

 それを支える筆力がまたすばらしい。コミカルさをたっぷりと含んだ文章運びが実に軽妙で、キャラクターたちの賑やかな絡みと心情描写の深さとの間に得も言われぬメリハリが効かされている。もうお見事のひと言!

 変化球かと思いきやどストレートな青春ストーリー、みなさまにお勧めいたしますよ!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

登場人物は3人! 舞台は喫茶店の内のみ! そして始まる推理劇!

  • ★★★ Excellent!!!

 寝不足のまま仕事を終えた“私”が馴染みの喫茶店へ行くと、マスターである青年がコーヒーを淹れており、テーブル席でひとりの老人が新聞を読んでいた。とりあえず注文を済ませて“私”は落ち着く……かと思いきや、ラジオから流れ来た殺人事件のニュースが老人を激昂させた。かくて始まるのだ。3人の演者による推理劇が。

 注目していただきたいのは構成の妙! ネタバレになるので内容は語れませんが、最初の段落からすでに始まっているのですよ、著者さんの仕掛けが!

 そして冒頭から一気に物語は展開していくのですが、外連味たっぷりな三者が三様に言の葉を繰り、細やか且つ濃やかな駆け引きを演じて織り成す起伏! その大きさに目を引きずり込まれてしまいました。これほど短いお話でまったく窮屈さを感じさせない、これもまた構成の妙ですよねぇ。

 私はミステリー音痴なので真相に辿り着けませんでしたが、鮮やかな種明かしによって読後はたと膝を打たされましたよ。さて、あなたはどこで真相に気づけますでしょうか?


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

野球を見、野球を思考し、野球を語る

  • ★★★ Excellent!!!

 三塁コーチャーボックスという『スペシャルシート』に立った尾崎如祭は野球というものを俯瞰し、多くの学びを得た。これはその知見を詰め込んだ無二なる記録である。

 職人さんのお話がおもしろいのはその人が職に精通していればこそですが、この記録はまさしく野球に精通した尾崎さんが語ればこそのおもしろさで満ち満ちています。試合全体へ視線を配り、野球というものを成立させている要素のひとつひとつを分析して、言葉へ落とし込んでいて。言ってみれば我々読者は尾崎さんの「見る目」を味わわせてもらっているわけですよね。

 実際、尾崎さんの目はひとつひとつのプレイにまで配られているんです。そしてそれらが結び合うことでひとつの試合が形作られていくのだと気づかせてくれるのですよ。加えてただの分析だけではなく選手としての思考や経験談が抱負に折り込まれており、これがまたお話の厚みを増している点も見逃せません。

 野球という競技を別角度から堪能できる「見取りの書」、どうぞご一読あれ!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)