仕事場環境がこの4月から激変し、これまでほぼ毎日お外へ出かけていたのに一転、お家へ引きこもることとなったわたくしです。しかし人間、楽しめるゲームさえあればカーテンの隙間からお外をチラ見するだけで10日やそこらはやっていけるものですねぇ。
話を思いきり変えるのですが、カクヨムをお楽しみいただいているみなさま、各新人賞へご応募されている方も多いかと思います。そこには大概、800字程度のあらすじ(梗概)を添えてくださいーと規定されていますよね。ですが下読みとして応募原稿を拝見する際、このあらすじが俗に云うところの“ウラスジ”になっていることがままあるのです。
ウラスジは本の裏表紙に書かれている内容紹介文で、お客様の興味を惹くための要するに宣伝です。ですから「謎に包まれた王子に今、得体の知れぬ危機が迫る!」などとネタバレを避けつつ期待感を高める締めくくりかたをしたりするわけですね。
でも、あらすじは物語のオープニングからエンディングまでを端的にまとめた、いわば設計図。王子の謎も危機の得体も、その結果なにが起きてどう収束するのかまで含め、物語の導入から最後のオチまで記してください。これが為されていないと下読みは物語の構造が掴めませんし、作者さんの意図を理解した状態で作品を読めなくなってしまいますから。
あらすじは作品に添付できる唯一の資料です。暴れそうになる利き手を制して物語のすべてを端的に記していただきたく。
と、お願いをさせていただきましたところで、今月の新作レビューを始めさせていただきますー。
人付き合いが苦手な神崎慎は幼少期から映画が好きだった。そんな彼も高校2年生となり、受験と向き合わされるのだが……。晴れない心を抱えつつ休日のルーティンである映画観賞へ出かけた彼は、身投げしかけていたクラスメイトの黒江ナナと行き会ってしまう。果たして彼の口を突いて出た言葉は「死ぬ前に! えっと、その――映画観ない?」。
本作をひと言で表せば「キャラクター小説」となりましょう。定義は様々あるものですが、あえてこの言葉を選んだわけは、主人公の慎くんというキャラクターにあります。心情描写で、独白で、他者の言葉や態度で、徹底的に描き抜かれた彼の様は、そこまで突き詰められているからこそ現在や将来とうまく折り合えない思春期のもどかしさを際立たせます。さらに映画を通して向き合ったナナさんと、ぎこちない思いを交わして育んでいく淡い恋! その有り様に心を深々と抉られるのです。
映画と青春と少年と少女。それらが織り成すほろりとした甘苦さをご堪能いただけましたら。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)
創作活動とは違う、未体験の新しいなにかをしよう。このエッセイはそう思い立った奈良ひさぎが実際に行った新しいことを綴り、その中で考えたことを語るものである。
というわけで、奈良さんが今年に入ってから新しく経験したことを記したエピソード集です。興味深いのはこれがただのレポートではなく、そこから思い起こした別の内容やお話に関係するご自身の過去について、果てはなんとも締まらない失敗などまで、幅広い話題が詰められている点。
著者さんの人となりが見えることこそがエッセイの醍醐味ですし、それだけでなく、いろいろな角度からご自身へ切り込んでいただけることで読者も著者さんを理解し、経験を追体験できます。それをこうもさらりと描き出せる奈良さんの筆はもう、お見事のひと言。
創作のためでも、ただただ気分転換のためでも、新しい経験をすればかならずなんらかの発見ができるもの。本作は家にいながら発見できる機会をもたらしてくれると同時、そこへ踏み出すためのきっかけになってくれますよ!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)