毎度おなじみ新作コーナーです。編集部の方から「たまには『創作論・評論』ジャンルの作品の紹介もいかがでしょう?」というお達しがあったため、「じゃあこのガンダムの歴史を紹介してる作品がめっちゃ面白かったから紹介していい? 『水星の魔女』もクライマックスだし!」と返事を返したところ、「あ、それでいいですよ」とあっさり了承されて、あ、こういう作品も紹介しても良いんだ……と持ちかけた側なのに少し驚きました。
そんなわけで今回は、僕が大変楽しんで読んだガンダム史をはじめ、一風変わった食レポ小説や、異世界の人権意識の高さに召喚された側が戸惑うユニークな召喚もの、荒廃した世界で自分が何者かを見出す短編SFなど、自信を持って薦められる面白い新作をチョイスいたしました。是非是非お楽しみください。
我々人間の視点だとタイトルだけを見て、「出てくる料理はステーキかな……?」などと思ってしまいそうだが、本作は意外や意外、動物が食べられる話ではなく、動物たちが動物の視点からグルメリポートをしていく異色の食レポ小説!
野牛の末裔であるエナム・バンテンを筆頭に、アニマルアカデミーによって知性を与えられた動物たち――ライオンやトカゲ、ゴリラに鰻(!?)といった様々な生物が女将さんに振る舞われた料理を食べて、食レポを繰り広げていく。
この食レポが人間視点で見ても普通に美味しそうなのだが、本作はただ食べるだけではなく、牛のエナムは一度呑み込んだ料理をしっかり反芻して味わうし、ライオンのサバーは肉の塊を噛まずに丸呑みして喉越しを楽しむなど、その動物にしかない特性をフル活用しており、食レポと同時にそれぞれの動物の生態を学ぶことができるのが大きな特徴!
動物たちが美味しい料理に舌包みを打つという一見ほのぼのした内容なのだが、その一方で、活動目的がよくわからないアニマルアカデミーの設定や、正体不明女将さんなど、合間合間に不穏な要素を挿し込んできて、先の展開の予想がつかなくなっているのも作品の良いスパイスになっている。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)
家族や周囲と上手く行っていなかった織名莉愛は、ある日異世界に聖女として召喚されてしまう。目の前にはイケメン魔術師がいるし、現世にはそこまで思い入れがないしで、早速新たな環境を受け入れようとした莉愛だが、周囲の反応は少し違った。
何せこの世界では異世界の人間を召喚するのは国際法によって禁じられた大犯罪! 莉愛を召喚した魔法使いバージルは最初から自分が死罪になる覚悟を決めていたし、彼女を前にした王族たちも非常に恐縮して全身全霊で彼女を歓待しようとする。
一方的に人を別の世界に召喚して、元の世界に返す方法もないんだからこれぐらいは当然……という見方もあるかもしれないが、現世に未練がなかった莉愛としてはこの態度はちょっと重すぎる……! ってか自分のせいで、人が死罪になるとか嫌だよ!
異世界に召喚されたことに不満はないものの、自分が聖女として活躍しなければ人がたくさん死んでしまうのはしんどい。こうした莉愛の地に足の着いた考え方が等身大で共感しやすく、それに対してやたら責任を感じている周囲の異世界の人との温度差が強烈で、ちょっと擦れ違い気味な双方が少しずつ距離感を縮めていくのが妙に楽しい一作。
設定にやや重いものがあるものの、作者があらすじの時点でハッピーエンドを保証しているので、安心して彼女が一人前の聖女になる様子を見守ろうではありませんか。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)
自分が何者か? というのは古今東西の物語でよく扱われる普遍的なテーマだ。
そして本作は冒頭から偽物呼ばわりされた双子の片割れの少女マイが、様々な経験を経て自分自身が何かという答えを見つける話である。
定期的に子供たちが消えては新たに補充される不気味な施設、人間に良く似たアンドロイドを作る《電気羊》と、電気羊に捨てられた《山羊》たちの対立、目に映るもの全てが砂に覆われた荒廃した世界の情景など、本作には物語が広げられそうな設定や要素が無数に散りばめられている。
だが、本作はそれらの要素を大して掘り下げない。物語はあくまでマイの視点から彼女の身の回りで起きることだけが語られ、劇中で起きる重大な出来事もかなり淡々とした様子で流されていく。そして物語には偉大なる勝利もなければ世界の秘密が暴かれるなんてこともない。
こうして様々な要素をストイックに削ぎ落した結果、物語には「彼女が何者か?」というシンプルな解答が残る……のだが、この解答が凄まじく残酷なのだ。
WEB小説には枚数の制限がないため、いくらでも話を長くできる。これはWEB小説の長所と言えよう。だが、書くべきテーマを絞り込み、一人の少女の半生を短編に落とし込んだ本作には、そうした作品では味わえない独特の凄みと鋭さが存在する。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)