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主人公がライン際で折り返したボールをゴール前で受け取りシュートを決めたのは長年連れ添った幼馴染だった。サッカーワールドカップ2022予選、日本対スペイン戦の一幕だ。主役となった三笘薫選手と田中碧選手は同じ小学校、同じチームの出身で、練習がない日はお互いの家で遊んでいた親友だそうだ。まるで少年漫画のようなドラマティックな設定だ。残念ながら日本はベスト16で敗退してしまったが、日本中に熱狂と感動を届けてくれた大会だった。そんなサッカーよりも実は盛り上がっているスポーツがあるのをご存知だろうか。そう『競馬』である。Jリーグの市場規模は1300億円ほどだが、競馬は国内だけでなんと3兆6000億円。海外に移籍したサッカー選手の契約金が5億円ほどとすれば、競馬の上位騎手は今年上半期で15億円以上を稼いでいるすさまじい世界だ。今回はそんな馬にまつわる物語をチョイスしてみました。人々がどうしてそこまで馬に魅せられるのか、それが伝わると嬉しいです。ちなみに出版業界の市場規模は1兆5000億円ほど、作家として一発当てれば年収1000万円も夢ではありません。こちらもなかなか夢があると思いませんか?
京都三大祭りの時代行列を馬に乗って先導をするのが、京都府警察平安騎馬隊のお仕事だ。警察学校を卒業し騎馬隊に配属された新米警官・馬越ふみ巡査に割り当てられたのは、同じく新米馬の丹波号。その日から一人と一頭の新米コンビの生活が始まった。
主人公の馬越ふみは、無類の馬好き。馬と触れ合えるという動機で志願した平安騎馬隊で待っていたのは、毎日が訓練の日々だった。
足が筋肉痛になっても、尻の皮が腫れても、休む暇なく馬の世話をして、馬房のボロ(うんち)を清掃する。女性にとっては肉体的にも精神的にも大変な仕事だが馬好きのふみにとっては、どんな苦労も喜びに変わってしまう変わり者なキャラが可笑しい。
平安騎馬隊には警察官だけでなく、獣医、厩務員、装蹄師、多くの人々が携わっている。頼れる先輩たちから学びつつ、絆を深めていくふみと丹波号の成長ぶりが愛おしい。
先導役は祭りの花形。先導役に与えられる検非違使の装束に憧れ、いつか自分もと夢をみて頑張るふみの姿に胸が熱くなります。
(「馬のいる日常」4選/文=愛咲 優詩)
主人公の男子高校生・若生颯太は、どこにでもいるモブ生徒。ひょんなことから校内でも屈指の美少女ギャル・吉沢愛梨が、自分と同じ競馬オタクだと知ってしまう。共通の趣味で繋がった二人は、次第に距離を縮めていき……、陰キャ主人公と陽キャヒロインの学園ラブコメです。
愛梨はギャルだが男嫌いでむしろ百合好き。一方の颯太はギャル系よりも清楚系が好き。
普通なら交流が生まれなさそうな両者ですが、競馬の話題になれば馬が合うという表現が相応しいディープな競馬トークの嵐に圧倒されます。
話が盛り上がるあまりお互いに接近しすぎて、ふと我に返って相手を急に意識してしまう二人の関係が初々しくて悶絶しそうです。
そのまま結ばれてハッピーエンドとはいかず、颯太はクラスメイトの清楚系な野々宮さんに片思いをして、野々宮さんは颯太の幼馴染みの蓮のことが好きで、蓮は愛梨が好きと、複雑な四角関係を構成していく展開が一筋縄ではいかない。
四人の少年少女のうち、果たして恋を叶えるのは誰か。まさに恋愛ダービーマッチ。皆さんも勝者を予想してみてください。
(「馬のいる日常」4選/文=愛咲 優詩)
金沢のとある厩舎に一頭の新馬がやってきた。名前はアキノドカ。彼女は日本競馬界の永遠のアイドル・ハルウララが産んだ三姉妹の一頭だった。
生涯負け続けながらもその愛らしさで一大ブームを巻き起こしたハルウララに娘がいたら?という架空小説です。
アキノドカは人間も馬も大好きな優しい性格だが、集中力が続かず、勝負事に興味がない問題児だった。
そんなアキノドカだが追い足に光るものを感じた調教師の延信太と女性騎手の霜月神無は、必死に勝利の策を練る。
悪戦苦闘する二人を余所目に、金沢競馬場は新たなアイドルホースの誕生に沸きかえる。多くの人々が見守る中、アキノドカの出走が始まる。
マイペースで緊張感がないアキノドカの先の読めないレース展開にハラハラして手に汗握ります。
そして別の厩舎へ行った姉妹たち、長女ナツサヤカ、三女フユシズカもそれぞれの地で悲喜交交のドラマを繰り広げる。
果たして三姉妹は母の呪縛を打ち払い、競走馬として己の可能性を証明できるのか。彼女たちのレースはまだ始まったばかり。是非、皆さんも見守ってみて欲しい。
(「馬のいる日常」4選/文=愛咲 優詩)