第4話:朝焼けの先に、まだ見ぬ旅路
鳥のさえずりと差し込む朝日が、私を懐かしい夢から覚ました。
夢の中にあったのは、いつか見た、どこか懐かしい家族団欒の朝食――。
きっとそれは、お前と一緒に過ごした夜のせいだ。
「いってててぇぇぇ〜……」
目を覚ました途端、いつもの二日酔いが容赦なく頭を締めつけてきた。
一瞬、どうして自分がこんな有様なのか思い出せずにいたけれど、そこにいるお前の姿を見て、昨日の出来事が一気に脳裏へ蘇る。
「ソフィア、やっと起きたみたいだが……君は少々、酒の飲み方を改めた方がいいぞ」
私の顔を見るなり、ソウは呆れたようにそう言った。
遡ること、12時間前。
ソウから預かった衣服の温もりが、冷え切った私の身体をじんわりと温めてくれていた。
そんな時、お前は少し言いにくそうに、私へ頼み事をしてきた。
「ソフィア……すまない。こんな状況で言うのも何だが……」
歯切れの悪い物言いに、私は不思議そうな顔をしたのだろう。
それを察したのか、お前は意を決したように言葉を続けた。
「実は、さっき話した通りに転送が失敗した。そのせいで、持ってきた物をすべて失ってしまったんだが……何か食べ物か、飲み物はあるか?」
なるほど。
アイツらを倒した直後に、そんなことを言うのは気が引けた――そういうことだったんだろう?
まったく……お前ってヤツは水臭いな。
私はきっと、そんなふうに笑みをこぼしていたのだと思う。
あの頃の私には、まだお前のそんな意外な一面も知らなかった。ただただ、そのギャップに驚かされていた。
「もちろんあるよ。助けてくれた礼だ。好きなだけ――とは言えないのが心苦しいけど、よかったら一緒に飯はどうだ? ちょうど一杯やり始めたところだったんだ。ちなみにソウは、酒もタバコもイケる口か?」
そんな私の軽い調子に面食らったのか、お前の強張っていた表情がふっと綻んだのを覚えている。
「大好物だよ、ソフィア。ありがたく頂こう」
その後の私たちは、他愛もない話や、お互いの過去をぽつりぽつりと語り合った。
色々なことを話して、笑った。
もちろん、そのほとんどは私の話に、お前が合わせてくれていただけなんだと、後になって分かる。
それでも――やっぱり、誰かと食べる飯は美味い。
こんな世界になってしまうまでは、誰かと一緒に食べることなんて当たり前だと思っていた。
でも人は、失ってから初めて知る。
本当に大切なものは、目には見えないのだと。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
響く頭に手を当ててみても、昨夜の細かいやり取りまではさすがに思い出せない。
そんな私を見かねたのか、ソウは小さくため息をついて語り出した。
あの後、酔いに酔いまくった私の醜態。
そして、車の修理のこと。
うん……私の醜態については、また機会があれば酒の肴として語ろう。
とにかく、ソウは朝起きてすぐ、車の状態を見てくれていた。
けれど結果から言えば、修理は無理だったらしい。
ただでさえ古い車で、前からあちこち手を入れていたんだ。
そのうえ昨夜、岩に乗り上げた時の衝撃で、トランスミッションの制御プログラムまでイカれたらしい。
「参ったなぁ……。買い出しの荷が運べないと、バーの客に出す品がなくなる」
頭痛の種が増えて、私はズキズキと痛む頭を掻きむしった。
すると、ソウの口から意外な一言がこぼれた。
「ここで直すのは無理だ、ソフィア。だが、飯の礼だ。ウェールズに戻ったら、うちのメカニックをここへ派遣する。それなら問題ないだろう?」
「あ……ありがとう、助かるよ!あれか、その……お前の国で言う“一宿一飯の恩義”ってやつか? いってててぇぇぇ〜……」
急に立ち上がって大声を出したせいで、自分の声が頭にがんがん響き渡る。
そんな私の姿に、ソウは少し呆れたように、けれど確かに笑ってみせた。
流暢に話す英語と、白髪――いや、白銀の髪のせいで、出会った当初はよく分からなかった。
けれど、飲み明かすうちに、ソウが日本人だということは自然と分かった。
ソウ曰く、あの日から今まで、海外を転々としているうちにこうなったという。
ただ――その左目側の縦傷と、鼻筋の横傷が交差する十字傷については、深く語ろうとはしなかった。
その顔の傷を見た瞬間、私は自分のこの傷とどこか重なるものを感じていた。
ソウに、共感してしまうところがあった。
ああ……。
お前にもきっと、この胸の奥にできた深い傷があるのだと。
「ありがたいけど、このまま車を放置するのもなぁ……。昨日の連中みたいな輩に、バラされでもしたらたまったもんじゃない」
「それなら大丈夫だ」
ソウはそう言って、右手を車へ向けて差し出した。
その瞬間、私はあの言葉を聞いた。
「コード・オープン、アクセス」
その瞬間、ソウの胸元にある紋章がオレンジに発光し、右手へ向かって光が走る。
その光は何か煌めく粒子のようなオーラとなって、車全体を包み込んだ。
ものの数秒もしないうちに、車はそばの岩肌と同化し、どこにあるのか分からなくなってしまった。
「ソウ……今のは、何がどうなってるんだ?」
「簡単なことだ。このアーマーを構成しているナノ粒子を散布して、車の周囲を覆っただけだ。あとは、その粒子が光の屈折を利用して、周囲の岩壁を投影している」
ソウは簡単に言ってくれるが、こっちはついていくので精一杯だった。
ただ、そんな私でも、お前の関わっている財団の“調査”が、ただ事ではないことくらいは分かる。
何故ならそれは、“地質調査”なんて生やさしいものじゃない。
神話の残骸を追う、御伽話巡りの旅だからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます