第6話 もしも一緒に歩けたら

 店の定休日。アメリアはロジュルムの西にある、大きな街に買い物に来ていた。

 街は多くの人で賑わい、活気に満ちている。かつてのロジュルムの姿を思い出し、アメリアは懐かしい気持ちで大通りを歩く。


 今日購入するのは、少し珍しい調味料だ。ロジュルムでも最低限は揃えられるが、もう一段階美味しい料理にしたいと思うと、それでは足りないこともある。

 キーラは店で留守番だ。大きな街には探知魔法が仕掛けられているらしく、魔族であるキーラは出入りできないらしい。

 常に魔族に気づけるよう、町全体に絶え間なく魔法をかけ続けていると言う。そんなことが可能なのだろうかとアメリアは思ったが、キーラ曰く「魔道具を使えばできるよ~」とのことだ。

 正直あまり理解できていないが、「魔法はすごい」ということだけアメリアは把握した。


 無事に調味料を購入したアメリアは、ついでに街を見て回ることにした。普段来ない場所からは、得られる学びがたくさんある。

 売店で流行を把握し、街一番の飲食店でメニューやサービスを研究する。道具屋でキーラにお土産でも買って帰ろうと思ったのだが、怪しい魔道具だったら怖いので見るだけに留まった。普通のアクセサリーに見えても、実は魔族を識別する魔法がかかっていることもあると、先ほど食堂で冒険者が話していた。


(だいぶ見て回ったし、そろそろ帰ろうかな)


 まだ日が高いが、街からロジュルムはそれなりに距離がある。日が傾く前に店に着いていたいと、アメリアは街の出入口に向かおうとした。

 通りを歩いていると、一枚の張り紙が目に留まった。それにはオレンジ色で大きくバツ印が書かれており、内容に対して過激な反対派がいることが見て取れる。

 その表題は、「魔族との共存を!」だった。


(よく貼ったなぁ……。絶対反対されるのに)


 都会で魔族との共存運動が広がっていると、アメリアも聞いたことくらいはあった。ロジュルムではあまり本気にされないが、本当にその運動が行われているのだと実感する。


 この運動に参加している人たちは、魔族のことをどう思っているのだろうか。魔族に家族を殺された人も多いというのに、どうやって賛同を得ようとしているのだろうか。

 逆に反対している人たちは、どういう理由で反対しているのだろうか。ロジュルムのように魔族に襲われてたのなら反対する気持ちもわかるが、この街はそうではない。ただ雰囲気で、頭ごなしに反対していないだろうか。


 アメリアには、どちらの気持ちも理解できた。街を襲った魔族のように、簡単に多くの命を奪う魔族はいる。しかしキーラのように、人間を襲わない魔族もいる。「共存できる」とも言い難いし、「共存できない」とも言い難い。


(魔族がどうか、じゃなくて、その人がどうか、なのかな)


 人間にも、いい人も悪い人もいる。魔族もそうなのかもしれないとアメリアは思った。

 もしこの共存運動が広がったら、キーラは正体を隠さずに生活できるのだろうか。そしたらキーラと一緒に、街で買い物をすることもできるのだろうか。


 今日、キーラが隣にいたらどうなっていただろうと想像する。まず、こんな地味な茶色いスカートなど履いてこないだろう。髪も仕事と同じように高い位置で括ってしまったが、下ろしてもいいのかもしれない。

 一緒に通りを歩いて、一緒に食事をして、一緒に売店を見て回る。キーラはああ見えて力があるから、珍しい食材を買い込んでもいいかもしれない。


(……楽しいだろうな)


 想像するだけで足取りが軽くなるようだった。そんな日が来たら、どれほど幸福だろう。

 万人に受け入れられるのには、まだ時間がかかるだろう。それでも少しずつ、一口に「魔族」では片付けられないのだとわかってもらえる日が来たらと、アメリアは思った。

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