第4話「電車移動」
土曜日の午後二時頃、俊敬は月読峠の駅構内に佇んでいた。券売機の
今日はこのあと麗奈に随行して、古地図に書かれた×印の地点を目指す計画だった。「俊敬の助力が得られなくても、諦めるつもりはない」――思い止まらせようとしても、頑なにそう主張され、彼女の身を案じた結果である。
麗奈の話を聞いてから、改めてネット上の風聞をスマートフォンで検索してみたのだが、当該地域が心霊スポットとして注目されているというのは、なるほど事実のようだった。
もっとも話題になっているのは、例の化石化した大蛇が発見されて以降の、本当にごく最近の期間だけだ。しかもオカルトファン限定の、狭い界隈でのことらしい。
一方それでいて、当地でじかに幽霊と出くわしたという人物の目撃証言には、俊敬の警戒心を刺激する要素があった。
――幽霊は、黒い人型の靄のようだった。
それは一昨日の夜、住宅街の路地裏に出没していた亡者の特徴を、そのまま言い表しているかに思えてならなかった。
事実なら、危険な存在が野放しにされていることは看過できない。当然相変わらず、お人好しが度を過ぎている、という自覚はあるのだが。
「もぉーその辺りの態度が煮え切りませんねぇシュンケーくんはっ」
あれこれ思い煩っていると、璃々花が横から腕に抱き付いてきた。
「麗奈さんの件が気に食わないなら普通に断れば良くて仮にあの人が勝手に幽霊と遭遇して
「……それで、なぜおまえもここへ来ているんだ」
俊敬は例によって辟易しつつも、無駄に距離が近い幼馴染を横目で見た。学校が休みなので、今日は私服の地雷ファッションに身を包んでいる。
普段は怪異調伏に出向く際、璃々花が現場の情報を掴んでいる場合が多いため、仕方なく行動を共にしているのだが、麗奈の件とは別段何の関わりもない。ゆえに随行の必要もないのだが、どういうわけか付いてくるつもりらしい。
問い掛けられて、璃々花はきょとんとした顔で
「なぜってもちろんシュンケーくんが麗奈さんと二人っきりになるのを防ぐためですが? 普通に考えてシュンケーくんは顔が良いし顔が良いし顔が良いのでスケベな女なら出会った次の日に突如性的アピールするのは全然あり得ますしそうでなくとも好きな男の子が私のいない場所で他の異性と過ごしているのはモヤっとするので」
さも当然といった様子で主張され、俊敬は駅舎の天井を仰ぐしかなかった。
殊更に
天澤麗奈だ。
片手を胸の高さに掲げ、挨拶を寄越す。
「こんにちは二人共。お待たせしちゃったかしら」
「いえ、俺と璃々花が少し早く来ていただけですから」
俊敬が事務的に応じると、麗奈は「それならよかったけど」と言って微笑む。
それから早速目的地を目指し、電車で移動することになった。俊敬と麗奈は県内で利用可能な交通系ICカード、璃々花は学校の定期券を取り出し、改札を通過する。
ホームへ滑り込んできた鈍行に乗り込み、在来線を清炭市の北西方面へ下っていく。
「ところでずっと気になっていて、天澤さんに訊いておきたかったことがあるんですが」
車内の吊り革を掴んだままで、俊敬は揺られながら切り出した。
麗奈は正面の座席に足を組んで腰掛け、続く言葉を待っている。
「古地図に×印が付けられた目的地を目指すに当たって、探索に俺みたいな赤の他人を巻き込むことについては、抵抗感がなかったんですか」
「あら、それってどういう意味かしら」
「
「それは金目の品が見付かったら、自分にも山分けして寄越せってこと?」
「そういう意味ではないですが、どうにも腑に落ちないので気になるんです」
怪訝な心情を隠しもせず、俊敬は目の前の女性をまじと見据えた。
麗奈は楽しげな表情を覗かせ、彼の視線に自分のそれを重ねる。
「単純な話よ。もし財宝があるとしても、入手する前に幽霊に祟り殺されたら何にもならない。怪異の危険より、まずは目的を達するための最善手を選んだわけ」
「いざ財宝を発見したら、我を忘れて天澤さんから強奪しようとするかもしれませんよ俺は」
「ふふ、そんな男の子が無償で人助けに拝み屋さんなんかするもんですか。第一ね君、まだ×印の地点にそんなにたいそうなものがあるって、決まったわけじゃないでしょう」
「でもきっと、値打ちのある何かが隠されている。そういう確信が天澤さんにはあるんじゃないですか。でなきゃ都内の人が何日も有休つぎ込んで、わざわざ片田舎まで来る甲斐がない」
にわかに俊敬と麗奈のあいだで、互いを
璃々花は、会話に口を挟んだりせず、珍しく押し黙っている。片手に手摺りを握ったままで、もう一方の手には俊敬の服の裾を捕まえていた。
「……折角だから、いいことを教えてあげる」
「ただし河端くんも隣の子も、急に車内を見回したりしないでね。――いいこと? 密かに周囲へ意識だけ向けて、気配を感じて欲しいの」
「気配を感じる? いったい何ですか、突然」
思いも寄らない話を持ち掛けられ、俊敬は戸惑いを禁じ得なかった。
しかし麗奈は何気ない素振りを保ちつつ、微妙に声音を潜めて囁く。
「気が付かないかしら。さっきから、こちらをずっと誰かが見ていると思うんだけど」
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