第19話:神の座の差し押さえ(アセット・フォアクロージャー)

 大聖堂を揺るがす地鳴りのような怒号。それはかつて「祈り」と呼ばれたものが、リヒトによって「債権者の権利行使」へと書き換えられた音だった。

「おのれ……! 神聖なる契約を、金銭の多寡(たか)で量ろうとは! 全信徒よ、この不信心者を討て!」

 教皇が杖を振り下ろし、狂信的な聖騎士たちが一斉に抜剣する。だが、彼らが踏み出した一歩は、リヒトの背後に現れた「現実」によって止められた。

「……無駄ですよ。聖騎士の皆さん。皆さんの装備している『聖銀の鎧』、および『加護の剣』。……鑑定したところ、それらはすべて教会の所有物ではなく、我が商会からの『リース品』に切り替わっています」

「な、何を言っている……!?」

「さきほど、聖教国の武器工廠(こうしょう)を、未払いの代金決済に代えて買収しました。……今この瞬間、皆さんの装備の『使用許可(ライセンス)』を取り消します」

 リヒトが指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、聖騎士たちの鎧に刻まれた魔導回路が一斉に凍結した。数トンの鉄の塊と化した鎧に押し潰され、精鋭たちはその場に崩れ落ちる。

「動けない……!? バカな、神の加護が消えたというのか!」

「いいえ。サブスクリプションの期限が切れただけです」

 リヒトは教皇の足元まで歩を進め、その震える手から「聖典」を奪い取った。

【対象:聖教国・最高機密文書】

【資産価値:古紙(一エリス相当)】

【隠された真実:魔石貯蔵による市場操作の記録】

「教皇様。あなたが神と呼んでいたものは、ただの『エネルギーの独占』でした。……地下の魔法陣を解体し、貯蔵された魔石を市場に放出します。これで、大陸のエネルギー価格は七割下落する」

「ま、待て……! それをしてしまえば、私の権威が……教会の存在意義が……!」

「存在意義? そんなもの、損益計算書(P/L)には載りません」

 リヒトは教皇の座る玉座に、赤い「差押」の紙を貼り付けた。

「本日をもって、聖教国は『リヒト・フィランソロピー(慈善財団)』に吸収合併されます。……教皇。あなたは今後、各地の開拓地で『懺悔』という名の無償労働に従事していただきます。……もちろん、歩合制(インセンティブ)ですが」

 泣き崩れる教皇。かつて世界を恐怖させた終末の魔法陣は、リヒトの指示で「大陸横断魔導鉄道」の動力源へと再利用されることが決定した。

「……さて、クロエさん。これで大陸の『負の遺産』はすべて清算しました」

 リヒトは窓から、朝日に照らされる聖都を見渡した。

 彼の瞳には、もはや敵対する数字は存在しない。

「……ですが、最後の一つ。……僕自身の『価値』を、まだ鑑定していませんでしたね」

 リヒトの瞳が、自分自身へと向けられる。

 そこに浮かび上がった数字は、これまでのどんな資産をも凌駕するものだった。

【個体名:リヒト】

【市場占有率:100%】

【世界価値:無限大(インフィニティ)】

「……さあ、新しい帳簿を開きましょう。これからは、僕がルールの世界です」

【聖教国:救済(買収)完了】

【世界統一経済圏:リヒト・スタンダードの確立】

一部完結。

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