第18話:信仰の時価評価(マーケット・バリュー)

 聖教国の首都、聖都グロリア。

 その巨大な大聖堂の前に、リヒトは一台の馬車で乗り付けた。周囲は数万人の信徒たちが跪き、祈りの歌を捧げている。

「リヒト、見て……。この人たち、みんな自分の財産を教会に寄付して、裸足で祈っているわ。理屈が通じる相手じゃない……」

 クロエが恐怖に肩を震わせる。だが、リヒトの瞳には、その異様な光景すら「数字」で変換されていた。

【対象:聖教国・信徒集団】

【熱狂度:98%】

【実質的労働生産性:0.01(壊滅的)】

【寄付総額(帳簿外):四千億エリス】

「理屈は通じなくても、金利(コスト)は通じますよ。クロエさん」

 リヒトは大聖堂の重い扉を蹴破るように開け、玉座に座る教皇へと歩み寄った。

「無礼者! 神の家を汚す金の亡者が! 貴様がどれほど富を積もうと、神の救済は買えぬぞ!」

 白髭の教皇が、魔力のこもった杖を振り上げる。大聖堂の床に刻まれた巨大な魔法陣が、リヒトの鑑定眼を焼き切らんばかりに発光した。

「教皇様。救済の話は後です。……まずは、この『預かり金』の返済計画についてお話ししましょう」

 リヒトは無造作に、数千枚に及ぶ「預かり証」の束を床にぶちまけた。

「な……それは、信徒たちが神に捧げた献金の控え……!」

「いいえ。僕の鑑定によれば、これは『無利子・無期限の債務(借金)』です。信徒たちは、死後の幸福という『配当』を期待して、あなたに投資した。……ですが、あなたが地下に貯め込んでいる魔石、あれは救済のためではなく、大陸全土を巻き込む『広域殲滅魔法』の触媒ですね?」

 リヒトの瞳が青白く輝き、地下に隠された魔法陣の「真の用途」を暴き出す。

【魔法陣:終末の審判(アポカリプス)】

【充填率:92%】

【配当原資:ゼロ(詐欺確定)】

「信徒たちに教えてあげましたよ。あなたが彼らの金を使い、彼ら自身を焼き殺す『地獄の装置』を作っていると。……そして、その債権(預かり証)を、僕がすべて買い取った(肩代わりした)ことも」

「な、何だと……!?」

「今、この瞬間に『神への投資』の解約(リデンプション)を宣言します。……教皇様。四千億エリス、今すぐ現物で返済してください。……払えなければ、この大聖堂を含めた聖教国の全資産を、担保として差し押さえます」

 大聖堂の外で、祈っていた信徒たちの声が変わった。

 それは祈りではなく、「金を返せ」という、地響きのような怒号。

 リヒトは、神の代理人を自称する老人を冷たく見下ろし、最後通牒を突きつけた。

「神に帳簿はつけられなくても、僕にはつけられる。……さあ、破産の手続きを始めましょうか」

【聖教国:債務不履行(デフォルト)認定】

【教皇:信用失墜(ブラックリスト入り)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る