第9話

――象徴は剣を持たず、神は沈黙する――**

**【SIDE A】

王国上層・密議視点

――黒幕は、すでに王都にいる――**

王都北区、

表向きは使われていない古い礼拝堂。

その地下で、

数名の影が円卓を囲んでいた。

「……暴動は、失敗だったな」

低い声。

「だが、成功でもある」

別の影が答える。

「民は、“迷った”」

「それで十分だ」

彼らは、魔法国家の人間ではない。

ヴァルドリア王国の――貴族だ。

「霧島アキラは、

力を使わなかった」

「つまり、

“使えない理由”がある」

一人が、笑う。

「ならば、

次は“信仰”だ」

テーブルに置かれた文書。

そこには、

魔法国家ルグ=アルマディアの印章。

「宗教使節を受け入れさせろ」

「“神意”という名の正当性を、

王国の内側に流し込む」

「民が神を選べば、

王も、異邦人も、

不要になる」

それが、

王国崩壊の設計図だった。



**【SIDE B】

王都・エレナ視点

――名を持つということの重さ――**

最近、

私の名前を呼ぶ声が増えた。

「エレナ様」

「演説の騎士」

「王国の声」

……違う。

私は、

そんなものじゃない。

城下を歩けば、

人々が頭を下げる。

恐怖と、

期待と、

依存。

それが混じった視線。

(……重い)

剣を振るうより、

ずっと。

「慣れませんか?」

隣を歩くアキラが、

静かに聞いた。

「……正直に言えば」

私は、少し考えてから答えた。

「怖いです」

「期待されることも、

信じられることも」

「でも――」

足を止める。

「誰かが、

この役を引き受けなければ、

国は壊れます」

彼は、

それ以上何も言わなかった。

その沈黙が、

答えだった。

王城に、

新たな使節が到着した。

今度は、

武装ではない。

白衣。

聖印。

祈りの言葉。

「我らは、

神意を伝えに来た」

魔法国家公認の

宗教使節団。

彼らは言う。

「光は、

神の試練である」

「便利さは、

魂を弱める」

それは、

暴力よりも厄介だった。



**【SIDE C】

宗教使節視点

――神を語る者の、沈黙――**

(……おかしい)

使節の一人は、

王都を歩きながら思った。

夜が、明るい。

だが、

祈りは消えていない。

人々は、

神を捨てていない。

なのに――

救われている。

水で死なず、

病で倒れず、

夜を恐れない。

(これは……

神の敵なのか?)

疑念が、

心に芽生える。

だが、

それを口に出すことはない。

彼らは、

“役割”として来ている。



**【SIDE B 続き】

エレナ視点

――神ではなく、人を信じる――**

宗教使節との公開問答。

広場は、

再び人で埋まった。

私は、

一人で前に立つ。

剣はない。

威圧もない。

「神は、

人に試練を与えると、

あなた方は言います」

「では、問います」

私は、

まっすぐ前を見た。

「水で命を落とすことは、

試練ですか?」

「夜の闇で、

子どもが泣くことは、

救いですか?」

使節は、

答えられなかった。

私は、続ける。

「神がいるなら、

きっと、

人が人を救うことを

否定しない」

その瞬間、

空気が変わった。

信仰は、

壊れていない。

だが――

独占は、崩れた。



**【SIDE D】

アキラ視点

――抑制解除の条件――**

夜。

私は、一人で思考する。

力は、

いつでも使える。

だが、

それは最後だ。

(条件を、

定義しよう)

世界に対してではない。

自分自身に対して。

第一条件。

国家が、

“選択する権利”を奪われたとき。

第二条件。

言葉が、

完全に否定されたとき。

第三条件。

――彼女が、

それでも立ち続けようとしたとき。

私は、

静かに決めた。

抑制解除は、

勝利のためではない。

未来を残すためだ。



**【SIDE B 終】

エレナ視点

――象徴になってしまったという自覚――**

その夜、

王城の窓から、

王都の光を見下ろした。

(……戻れない)

私はもう、

ただの騎士ではない。

でも――

後悔は、していない。

剣を捨てても、

守れるものがあると、

知ってしまったから。

遠くで、

鐘が鳴る。

それは、

始まりの音だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る