第8話

――声が折れる前に、世界は牙を剥く――**


**【SIDE A】

魔法国家・ルグ=アルマディア視点

――“救済”という名の侵略――**

大賢導院・内陣。

白い結界に囲まれた円卓の中心で、

使節代表セラフィウスは、静かに報告を終えた。

「……以上が、ヴァルドリア王国での交渉結果です」

沈黙。

賢導たちの顔に、怒りはない。

あるのは――確信だけだった。

「やはり、拒否したか」

「異端の力に溺れた国の末路は、

いつの時代も同じだ」

一人が、指を鳴らす。

空間に、王都の簡易魔導映像が浮かび上がる。

光に満ちた夜。

空を巡る無魂の機械。

地下を走る“見えぬ道”。

「……民は、まだ分かっていないだけだ」

セラフィウスが、静かに言う。

「恐怖は、外から与えるものではありません」

「内側から、育てるのです」

賢導の一人が、薄く笑った。

「反対派市民、貴族残党、宗教勢力」

「種は、十分に撒かれている」

「では、次の段階へ」

机の上に置かれた水晶が、赤く輝く。

「“暴動未遂”を起こせ」

「流血は不要だ。

恐怖と混乱だけでいい」

セラフィウスは、深く頷いた。

「理解しました」

彼の脳裏に浮かぶのは、

王城で言葉を放ったあの女――エレナ。

(……盾を捨てた者ほど、

折れたときの影響は大きい)

「王国の“声”を、

内側から壊せ」

それが、

魔法国家による間接侵略の本格的な開始だった。



**【SIDE B】

王都・エレナ視点

――王国の声として立つということ――**

違和感は、朝からあった。

市場のざわめきが、

いつもより重い。

人々の視線が、

光を避けるように下を向いている。

「……始まっている」

私の言葉に、

周囲の近衛兵が緊張する。

「暴動……ですか?」

「いいえ」

私は、首を振った。

「まだ未遂です」

声が、囁きに変わり、

囁きが、集団になる。

それが、暴動の正体。

正午。

王都中央広場。

工事中の電力塔の前に、

人が集まり始めた。

「神への冒涜だ!」

「夜を昼にするなど、異常だ!」

魔法国家の言葉と、

反対派市民の恐怖が、

同じ言葉になって噴き出す。

近衛兵が、前に出ようとする。

「待って!」

私は、手を上げた。

剣は、持っていない。

盾も、ない。

それでも――

私が、前に出る。

「皆さん!」

声を張り上げた瞬間、

広場が、わずかに静まった。

「恐れているのは、分かります!」

「私も、最初は怖かった!」

嘘ではない。

「でも……

この光は、

誰かを支配するためのものじゃない!」

「子どもが夜に泣かないために」

「水で命を落とさないために」

「明日を、当たり前に迎えるために!」

怒号が、飛ぶ。

「信じろと言うのか!」

「神を捨てろと言うのか!」

私は、首を振る。

「違います!」

「選んでください!」

「魔法を信じる自由も」

「変化を拒む自由も!」

「でも――

恐怖を、他国に利用される自由だけは、

選ばないでください!」

その瞬間。

人々の中に、

明確な“揺らぎ”が生まれた。

(……届いている)

だが――

石が、投げられた。

電力塔に、

ではない。

私に向かって。



**【SIDE C】

アキラ視点

――抑制を超える、という選択――**

監視映像が、

私の網膜に直接投影される。

エレナ。

石。

人混み。

計算が、瞬時に走る。

迎撃。

拘束。

空間停止。

すべて可能。

消費MP:ゼロ。

だが――

(……ここで、力を使えば)

彼女の言葉は、

意味を失う。

国は、

力で黙らされたと理解する。

私は、拳を握った。

(初めてだな……)

抑制を超えることを、

“使わない”ために迷うのは

石は――

当たらなかった。

エレナが、避けたのではない。

周囲の市民が、

無意識に前へ出たのだ。

「やめろ!」

「話を聞け!」

それは、

小さな、だが確かな変化。

私は、息を吐いた。

(……まだ、だ)

抑制を超えるのは、

世界が選択を拒んだときだけでいい。



**【SIDE B 続き】

エレナ視点

――声が、声を守った瞬間――**

私は、震えながら立っていた。

怖かった。

剣が、恋しかった。

それでも――

「……ありがとう」

前に立ってくれた市民に、

そう言った。

暴動は、起きなかった。

だが――

敵は、はっきりした。

これは、偶然じゃない。

王都は、

“試された”のだ。

その夜、王城で報告を終えた私は、

アキラに言った。

「……もし、今日、力を使っていたら」

彼は、首を振った。

「あなたは、

正しい選択をしました」

「そして――」

少しだけ、声が低くなる。

「次は、

相手が選択を間違える番です」

遠くで、雷が鳴った。

魔法国家は、

一歩、踏み込んだ。

世界は、

後戻りできない場所へ、

静かに進み始めている。

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