第7話

――言葉は、剣よりも深く刺さる――

(エレナ・ヴァルドリア視点)**

使節が来る。

その知らせを聞いた瞬間、

王城全体の空気が、目に見えて変わった。

重く、張り詰め、

誰もが無意識に声を潜める。

敵国――

魔法至上主義国家(ルグ=アルマディア)。

これまで、影で思想を流し、

噂で人心を揺らし、

境界で軍を動かすに留めていた彼らが、

ついに――表に出てきた。

(……外交、という名の戦場)

私は、深く息を吸った。

剣は、持たない。

今日は――

言葉で戦う日だ。

王城の大広間。

いつもは祝宴や叙勲に使われる場所が、

今日は、まるで法廷のようだった。

玉座の前。

王と、その側に立つ霧島アキラ。

そして、その少し後ろに――

私。

使節団が、入ってくる。

白と紫を基調とした法衣。

身体の至る所に、魔導装飾。

歩くだけで、空気が歪む感覚。

先頭に立つ男が、一礼した。

「我は、ルグ=アルマディア

大賢導院所属、使節代表――

セラフィウス」

その声には、

礼節と同時に、明確な優越感が滲んでいた。

「貴国の急激な変化について、

我が国は深い憂慮を抱いている」

開幕から、牽制。

王が、静かに応じる。

「変化は、民のためのものだ」

「魔法を使わぬ光。

空を巡る無魂の目。

地を裂く異端の力」

セラフィウスの視線が、

霧島アキラへ向けられた。

「それらは、

世界の理に反する」

その瞬間、

広間に、ざわめきが走る。

(……来る)

私は、覚悟を決めた。

「理、とは何ですか」

霧島アキラが、口を開く。

声は低く、

だが、よく通る。

「魔法だけが、理なのですか」

セラフィウスは、薄く笑った。

「当然だ。

魔法は、神々より授かりし力」

「では、問います」

アキラは、一歩も引かない。

「魔法を使えぬ者は、

世界に不要ですか」

一瞬。

使節団の表情が、固まった。

「……不要、とは言わぬ」

「しかし、導かれるべき存在だ」

(……選民思想)

私は、奥歯を噛みしめた。

そのとき。

「失礼いたします」

私は、一歩、前へ出た。

広間の視線が、私に集まる。

(……震えるな)

これは、私の役目だ。

「私は、ヴァルドリア王国

王直属特別顧問補佐

エレナ・ヴァルドリア」

名乗った瞬間、

騎士ではなく、側近として立っていることを、

自覚した。

「貴国は、魔法を“神の理”と呼ぶ」

「ですが、我々にとって、

水を清め、夜を照らし、

民を病から守る力も――

同じく、理です」

セラフィウスが、眉をひそめる。

「それは、力の乱用だ」

「いいえ」

私は、首を振った。

「それは、責任の引き受けです」

広間が、静まり返る。

「剣で守るのは、境界です。

魔法で守るのは、戦場です」

「ですが――

文明で守るのは、日常です」

その言葉は、

私自身にも、深く突き刺さった。

(……私は、

それを学んでいる途中なのだ)

交渉は、平行線を辿った。

ルグ=アルマディアは、

技術の停止を要求し、

我々は、拒否した。

「ならば」

セラフィウスは、冷たく告げる。

「貴国の民が、

その“異端の光”を拒み始めたとき、

我々は、救済を与えよう」

それは――

脅迫だった。

使節が去った後。

王都の空気は、さらに重くなった。

反対派市民が、増えている。

「魔法国家が正しいのではないか」

「神を怒らせているのではないか」

そんな声が、

夜の裏路地で、囁かれる。

電力網の拡張工事が、

妨害される事例も出始めた。

(……内部から、崩れる)

私は、王城の回廊で立ち止まった。

「……怖いですか」

背後から、

霧島アキラの声。

「……はい」

正直に、答えた。

「剣で斬れる敵なら、

迷いませんでした」

「でも……

これは、人の心です」

彼は、少しだけ微笑んだ。

「だからこそ、

あなたが必要です」

その言葉に、

胸が、静かに熱くなる。

私は、もう盾ではない。

刃を受ける存在でもない。

――言葉で、立ち続ける者だ。

王都は、揺れている。

敵は、外にも、内にもいる。

だが。

私は、彼の隣に立つ。

世界が、どんな選択を迫ってこようとも。

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