第5話余燼の礼賛

実戦考核の円台は古の結界に包まれていた。淡い金の魔法紋路が台の縁を緩やかに流れ、観客席の喧騒を隔絶する不可越の障壁となっている。空気は高密度の魔力飽和により粘着質で重くなり、呼吸するたびに冷たい泥漿を飲み込むかのようで、胸は無形の圧力に締め付けられ、指先の震えさえ言い知れぬ滞りを帯びていた。観客席は満員で、エルフたちは衣をなびかせ、優雅で漠然とした表情を浮かべている。ただ一人、アンダーソン教授だけが隅に立ち、瞳の奥に切迫した凝視を湛え、円台中央の私を凝視していた。

対戦相手は学年筆頭、レアンド。彼は光と影の交錯する中心に立ち、銀髪を結界の中の微風に軽やかに遊ばせていた。額にはエルフ特有の淡い青の魔法印が灯り、柔和だが凍てつくような光を放っている。彼の手にあるフェニックスの羽で作られた法杖は、頂点に澄み渡った火炎結晶を嵌め込み、絶望的な、太陽のごとき輝きを放っていた。不純物一つないその光は、居丈高な圧迫感を伴い、一振りで私を灰燼に帰すかのようだった。

「ポール君、また会ったね」レアンドの声が結界越しに届く。氷の粒が玉盤に落ちるように冷たく傲慢で、一語一語にエルフ特有の優越感がこびりつき、芸術的なまでの嫌悪を帯びていた。「怖さのあまり、あのアンダーソンの汚らしい研究室に引きこもっていたそうじゃないか。君がいない間、実に退屈だったよ。ゴブリンのアミットを覚えているかい? 先日退学したよ。君ほど『遊び甲斐』がなくてね」

その言葉は毒を塗った氷の針のように、私の心の最も脆弱な箇所を正確に貫いた。アミットの退学は知っていた。日々の虐げにより絶望の淵に追いやられた結果だ。だが私は反論せず、ただ奥歯を噛み締め、爪が食い込むほど拳を握った。知っているのだ。圧倒的な実力差の前では、あらゆる言葉は空虚であり、あらゆる忍耐はただこの瞬間のため、この忌々しい優雅を打ち砕き、骨の髄まで刻まれた傲慢を引き裂くためのものであることを。

戦闘開始の瞬間、前触れもなく私の肩が裂けた。

レアンドは詠唱すら行わず、ただ指先を跳ね上げただけだった。不可視の【風刃】が断頭台の刃となり、粘着質な空気を切り裂き、狂いのない正確さで私の肩を割った。布地が裂ける乾いた音、肉が削がれる鈍い衝撃。暗赤色の血が鏡のような大理石にぶちまけられ、熱を帯びたそれは淡い金の結界、そしてレアンドの汚れなき衣の裾との間で、凄惨な対比を描き出した。

劇痛が全身を硬直させ、喉に腥(なまぐさ)いものがせり上がる。私は暗赤色の血痰を吐き、衣を汚しながら、震える手で腰の革袋を抉じ開けた。アンダーソン教授の研究室で、不眠不休で抽出した「生命の粉末」だ。一粒一粒に私の汗と執念、そして薬草の苦味と微弱な魔法の波動が凝縮されている。

私は全身の力を込め、その粉末を叩きつけた。鼻を突く苦味と生理的な粘着質を伴う粉霧が私を包む。傷口に触れた瞬間、肉芽が狂ったように蠢き、血管と皮肉を強制的に縫合していく。それはエルフの癒やしのような柔和さはなく、自然の摂理を蹂躙する野蛮な再生だ。

「姑息な真似を!」レアンドが冷笑し、法杖を振る。「劣等種が、私の前で小細工など!」

直後、狂暴な暴風が吹き荒れ、私を包んでいた薬草の霧を無残に吹き飛ばした。だが私は歪んだ笑みを浮かめる。これこそが、私の狙いだ。

私は瀕死の獣のように円台を転がり、風刃を避けながら、腰から「煙幕弾」を叩きつけた。「バン、バン、バン」という鈍い音が響き、硫黄の臭気と煤煙が円台を覆い尽くす。高貴で鋭敏なエルフの双眸を、そして観客席の視線を遮断する。

「無意味だと言っている!」レアンドの激昂した声が響く。管理しきれない不浄な煙に、彼の優雅さはひび割れ始めていた。彼は風の制御を捨て、法杖の結晶を暴虐な暗赤色へと変える。すべてを焼き尽くす【爆裂火球】の予兆。

風が止まった。

魔力が反転するその刹那、私は最後の切り札――【閃光弾】を放った。それは魔術具ではない。マグネシウムの細片と酸化剤を詰め込んだ、醜悪な鉄の塊。それが点火され、劇烈な白光を放つ。温度は網膜を焼き切るほどに。敏鋭すぎるエルフの網膜に、その光は重槌となって突き刺さり、彼らを瞬時に盲目へと突き落とす。

「ぎああああかっ!」

レアンドの悲鳴が、結界の中に響き渡った。かつての傲慢は消え、彼は両目を押さえて無様にのたうち回る。

今だ。私は火炎の残滓を突き抜け、突進した。肉が焦げる臭いが肺を焼く。だが痛みは感じない。聞こえるのは、ピストンのように狂ったように跳ねる心臓の鼓動だけだ。

距離五メートル。

私はあの重く、錆びついた黒鉄の怪物――「余燼(エミキ)」を引き抜いた。 それは墓碑のように沈黙し、光を反射することすらない。老人のような胼胝(たこ)に覆われた手でグリップを握りしめ、魔力を無理やり流し込んで痙攣する右腕を固定する。

詠唱などいらない。慈悲など乞わない。 私は引き金を引いた。

「――ドンッ!!」

あらゆる優雅な幻想を粉砕する、物理的な轟音。 秒速五百メートルの金属衝撃。鉛弾が火薬の憤怒に押し出され、目視不可能な焦熱の軌跡を描く。

レアンドの眉間に、正確で、焦げ付いた深い孔が開いた。 爆発も、光の演出もない。ただ、極度の冷徹な物理法則があるだけだ。 慣性に従い、彼の後頭部から脳漿と砕けた骨が混ざり合った粘着質な「紅白の花」が咲き散った。天賦の才に溢れたその肉体は、砂袋のように力なく円台に崩れ落ち、鮮血が大理石の溝を伝って不吉な図形を描いていく。

硝煙の漂う円台で、私は銃身の余熱を感じながら立ち尽くした。 肺に溜まっていたあの機油の臭いが、この一発の銃声と共に、ようやくすべて吐き出された。

私は観客席の、石像のように固まったエルフたちを見据える。彼らの「優雅」は、この卑薄な鉛の一粒の前で、塵も残さず砕け散っていた。

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