第4話鋼の華

時間に刻みはない。あるのはただ、胸の悪くなるような循環だけだ。 窓の外では垂星花が成片となって散り、魔力の残滓を帯びた半透明の花びらが、粘着質な白雪のように黒ずんだ窓枠に降り積もる。そして雨の朝、甘い生臭さを放つ泥となって腐っていく。それに取って代わるのは盛夏の野蛮な繁殖だ。暗緑色の蔦が生理的な侵略性をもって塔を覆い尽くし、巨大な葉が猛暑の下で脂ぎった汁を滲ませる。蝉時雨は鋭く掠れ、無数の細い鑢(やすり)が大気の縁を削っているかのようだ。

この光と影が交差する日々の中で、私は研究室の一塊の生鉄(なまがね)と化した。

私は「自然との対話」を標榜する野外冥想の講義には二度と出席しなかった。エルフたちが軽やかな薄絹の法衣を纏い、湖畔で水元素の流動を感得している間、私は四十度の熱気と機油の煙に満ちた地下室に蹲っていた。爪の間には石墨と金属粉が完全に食い込み、どれほど擦っても鉄錆の臭いのする死皮が剥がれるだけだった。

アンダーソン教授は寡黙だった。ただ揺れる木椅子に座り、永遠に吸い終わらぬ煙草を咥え、私が重いシームレス鋼管を旋盤に何度も押し込む様を冷ややかに見守っていた。旋盤が発する絶叫が鼓膜を刺し、飛び散る鋼の屑が皮膚を焼き、蟻に噛まれたような赤い点々を残す。

私の魔力は相変わらず凡庸で、今にも霧散しそうな煙のように希薄だった。だが、それを華麗な火球や稲妻に変えようとはもう思わない。アンダーソン教授の注視の下、私は別の「呪文」を学び始めた。

その乏しい魔力を、溶接棒の先端に強引に包み込む。それは極めて苦痛な過程だった。過負荷な魔力伝導により、脆弱な経絡が無声の痙攣を起こす。滴る汗が熱せられた金属部品の上で「チッ」と音を立て、瞬時に汽化して塩辛い白霧となる。粘着質な疲労が脊椎を這い上がり、冷たい蛇のように私の意志を蝕むのを感じる。

「精度が足りん! 迅速さが足りん!」教授の声が暗闇で響く。鉄板を打つ石のような響きだ。「もう一度手本を見せる。導くのだ。それが箱であり、中に小球が整然と並んでいると考えろ。お前がすべきは、その小球を動かすことだけだ」

見れば、彼の手の中の溶接棒が瞬時に真っ赤に、あるいは破滅的な白光を放つ。

私は歯を食いしばり、魔力を再校正する。手が震える。掌の焦げ跡は繰り返される摩擦により分厚い胼胝となり、干固した血塊のように硬くなっていた。私はいつしか、絶対的な物理の尺度に執着し始めていた――一ミリの誤差は爆発であり、一グラムの配合の狂いは破滅である。

琥珀のように純粋なこの学院の中で、私はこの世界に属さぬ、汚濁した腫瘍を自らの手で造り上げていた。

かつて人類は狩猟に弓矢を選んだ。だがそれは弱者のロマンだ。弓矢は弦を番え、引き絞り、呼吸を止める必要がある。魔法使いを前にして、矢はあまりに「優しい」。風に容易く乱され、大火球によって空中で灰に帰す。その速度はあまりに遅く、エルフたちが優雅な詠唱を完遂するのに十分な時間を与えてしまう。

私には、より暴虐な秩序が必要だった。

私が「余燼(エミキ)」と名付けた拳銃。そこにはエルフの法杖のような流線形の美しさはない。銃身は重厚な黒鉄の鋳造であり、表面には研磨機で削られた粗野な紋路が、皮を剥がれた野獣のように刻まれている。握りには汗と機油の染み込んだ粗い皮革が巻かれ、墓碑のように重苦しい。

それは詠唱を必要とせず、元素の親和も求めない。ただ引き金を引くという意志さえあれば、あとは火薬の憤怒と鋼の制約がすべてを完遂する。

初夏の最後の雷雨が降る頃、私は最後の一発の弾丸を圧入し終えた。真鍮の薬莢が鉄の台に当たって立てる清脆な音は、いかなる聖歌よりも心地よかった。

私は鏡の中の自分を見た。長期間の地下生活により、皮膚は病的なまでに蒼白く、眼底には睡眠不足による暗赤色の毛細血管が浮き出ていた。痩せこけ、幼さの残っていた頬は扱(しご)かれ、刻薄なほどに硬質な輪郭を晒している。人間の子が抱く魔法への畏怖はすでに消え失せていた。取って代わったのは、生理的な、「破壊精度」への狂熱だった。

「行け」

アンダーソン教授が影の中で煙草の煙を吐いた。火光がその深い皺の刻まれた顔を一瞬照らす。

「奴らの実戦講義に出席してこい。神の末裔を自称する連中が、秒速五百メートルの金属衝撃を前にして、なおその優雅な笑みを保っていられるか、見てくるがいい」

私は重い帆布の鞄を背負った。中の金属部品が触れ合い、「ガチャン」と冷たく乾いた音を立てる。

研究室を出た瞬間、盛夏の陽光が両目を刺した。エルフの郷の花香は相変わらずだが、肺に積もった機油の臭いが、かつてない残酷な清醒を私に与えていた。

分かっている。木の上で吊るされて哀鳴を上げ、許しを乞うていたあの子供は、もう死んだのだ。

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