第7話 知らない天井

 白い天井だった。

 見たことのない天井だった。洞穴の岩肌でも、異世界の空でもない。ちゃんとした、建物の天井だった。


「…生きてるな、俺」


 体が重い。全身が痛い。でも生きている。

 大吉はゆっくり起き上がった。簡素なベッドの上だった。窓から光が差し込んでいる。街の音がする。人の声、馬の蹄、どこかで鐘が鳴っている。


「キオ」


 返事がない。

 大吉は跳ね起きた。


「キオ!」

「ココ」


 窓際だった。キオが体育座りで窓から差し込む日光を浴びていた。微動だにせず、ただじっと日に当たっていた。


「…充電中か」

「ウン」

「お前は元気そうだな」

「ダイキチガ ネテタ」

「俺は一日寝てたのか」

「ミッカ」

「三日?!」


 キオは無言で日光浴を続けた。

 大吉はため息をついて窓の外を見た。石造りの建物が並んでいる。露店が出ている。人が行き交っている。

 街だ。


「ここどこだ」

「シラナイ ハコバレタ」

「誰に」

「イッパイキタ ヒトガ」


 大吉は頭を掻いた。助けられたらしい。

   *

 三日後、キオの充電が終わった。

 大吉は街に出ることにした。キオを肩に乗せて。


「いいか、この世界って普通に人形喋るのか?」

「シャベリマセン」

「じゃあ人形のフリしとけ」

「ワカッタ」


 街に出た。石畳の道を歩く。人々が行き交っている。最初は普通だった。

 すれ違った女の子がキオを見て「かわいい人形!」と言った。


「アリガトウ」

「喋った!!」

「…キオ」

「キカレタカラ」

「聞かれても答えるな」

「ムズカシイ」


 女の子が悲鳴を上げて走っていった。周囲の視線が集まった。


「行くぞ」

「ウン」


 大吉は何事もなかったように歩き出した。

   *

 冒険者ギルドを見つけたのは昼頃だった。

 扉を開けると中にいた冒険者たちの視線が一斉に集まった。

 ジャージ。木刀。肩の上の人形。


「…なんだあいつ」

「人形持ってる」

「木刀?」


 大吉は気にせずカウンターに向かった。受付の女性が引きつった笑顔で迎えた。


「え、えーと、ご用件は」

「冒険者登録したい」

「か、かしこまりました。あの、その、肩のそれは」

「人形です」

「ア、ソウデスネ」


 背後でざわざわしている。


「あいつ人形と喋ってたぞ」

「危ないやつなのか」

「なんで肩に乗せてんだ」


 大吉は振り返らなかった。


「登録、お願いします」

「は、はい!」

   *

 冒険者登録を終えて外に出た。


「なんか視線が痛かったな」

「ニンキモノ」

「そういう意味じゃない」


 大吉は木刀を肩に担いで空を見上げた。

 まあいい。どうせこれからこの街でやっていくんだ。


「飯食いに行くか」

「ニク?」

「ああ」

「ヤッタ」


 ジャージの男と肩の上の人形が、街の雑踏に消えていった。

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