第6話 アース・ドラゴン

 その日の昼飯はイノシシの炙り肉だった。

 大吉が肉を頬張り、キオが隣で木の実をかじっている。

 風が気持ちいい。空が青い。平和だ。


「キオ、お前木の実だけで足りるのか」

「タリル」

「そうか」

「ダイキチハ イツモニク」

「肉が好きなんだよ」

「シッテル」


 のんびりした時間が流れていた。

 その時。

 ど、ど、ど、ど。

 地面が揺れた。


「…地震か?」


 ど、ど、ど、ど。

 違う。リズムがある。何かが歩いている音だ。


「ダイキチ」

「わかってる」


 二人で茂みから顔を出して覗いた。

 森の木々がなぎ倒されていた。それをやっているのは。


「………でかいな」


 全長二十メートルはあろうかという、岩のような鱗に覆われたドラゴンだった。足を一歩踏み出すたびに地面が揺れる。口から漏れる息だけで木が揺れている。


「え、やべーな」


 大吉は呟いた。


「アース・ドラゴン」

「知ってるのか」

「シッテル ヤバイ」

「だよな」


 大吉は木刀を握り直した。ドラゴンを見た。木刀を見た。ドラゴンを見た。


「あ、詰んだな」

「ニゲヨウ」

「そうしよう」

   *

 全力で逃げた。

 ドラゴンは思ったより執念深かった。森を抜けても追いかけてくる。木をなぎ倒しながら来る。理不尽だ。


「なんで俺らに執着してんの!」

「エサ!」

「俺たちが?!」


 洞穴に飛び込んだ。ドラゴンには入れない大きさだ。一時的に安全になった。

 でも外でドラゴンが唸っている。洞穴の入り口に爪を立てている。岩がじわじわ削れていく。


「…時間の問題だな」

「ウン」


 大吉は木刀を握り直した。でもドラゴンに木刀は焼け石に水だ。


「何か、ないのか…!」


 キオは少し黙った。


「アルニハ アル」

「使え」

「デモ コントロール デキナイ」

「構わん」

「ダイキチモ マキコマレル」

「わかってる。やれ」


 キオは一度だけ大吉を見た。

 それから目を閉じた。

   *

 光だった。

 音がした。というより音しかなかった。世界が音になった。

 一瞬で周囲一帯が白く染まった。ドラゴンの声がした。それから何もかもが静かになった。


「なんじゃこりゃ~!」


 大吉は叫んだ。叫びながら空を飛んでいた。飛ばされていた。


「…あ、意識が」


 景色が白くなった。

 そのまま、何もわからなくなった。

   *

 謎の爆発の調査に来た衛兵と冒険者がその場所に到着したのは、それから一時間後のことだった。

 周囲一帯がガラス状になっていた。木も岩も地面も、全部。アース・ドラゴンの鱗だけが散らばっていた。


「なんだここは…」


 衛兵の一人が呟いた。

 その時。


「隊長、こっちに人がいます!」


 駆け寄ると、ガラスになった地面の上に男が倒れていた。グレーのジャージを着た、妙にイケメンな男が。その胸に小さな木製の人形をしっかりと抱えていた。


「生きてるか?」

「脈はあります」

「なんでジャージなんだ…」

「わかりません」

「人形は?」

「こっちも…生きてる?のか?」


 誰も答えられなかった。

 ジャージの男は人形を抱いたまま、静かに眠り続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る