エピローグ「愛しき日々、悠久の風」

 あれから5年。

 魔王城の庭園には、元気な子供の声が響き渡っていた。


 「待てー。父上、勝負だー」


 「ハハハッ、遅い遅い。その程度で余を捕まえられるか」


 5歳になった息子、シオンが木剣を振り回して走り回り、それをベリアルが楽しそうに逃げ回っている。

 シオンはすでに大人の魔族を凌駕する魔力を持ち、その剣筋はかつての勇者を彷彿とさせる鋭さがあった。

 テラスでお茶を飲みながらその様子を眺めていたレオは、幸せそうに目を細めた。


 「たく……どっちが子供なんだか」


 レオの体つきは、出産前と変わらず引き締まっているが、その纏う空気はずっと柔らかくなっていた。

 首にあった魔封じの首輪の痕も、今ではすっかり消えている。


 「ママ。父上が卑怯なんだ。魔法を使って逃げるんだよ」


 シオンがふくれっ面で駆け寄ってくる。

 レオは息子の汗をハンカチで拭いてやった。


 「シオン。戦いに卑怯も何もない。勝った者が強い、それが父上の教えだろ?」


 「むぅ……でもぉ」


 「それに、お前も魔法を使えばいい。ママが教えた『身体強化』、もうできるはずだ」


 「うん。やってみる」


 シオンは再び目を輝かせ、ベリアルに向かって突進していった。

 鈍い衝撃音と共に、魔王がわざとらしく吹き飛ばされる演技をする。


 「ぐわぁぁっ。やられたー」


 「やったー。父上に勝ったぞー」


 庭に笑い声が満ちる。

 ベリアルが起き上がり、泥だらけの服のままレオの元へと歩いてきた。


 「見たかレオ。あやつの成長ぶりを。末恐ろしい才能だ」


 「誰に似たんだかな」


 「フッ、決まっている。最強の勇者であるお前と、最強の魔王である余の子だ。世界を統べる王になる器よ」


 ベリアルはレオの隣に座り、自然に腰に手を回した。

 年を重ねても、その熱烈なスキンシップは変わらない。むしろ、日ごとに深まっている気さえする。


 「なぁ、ベリアル」


 「ん?」


 「平和だな」


 「ああ」


 ベリアルは遠くを見つめた。

 城下町からは、魔族と人間が共に暮らす賑やかな音が聞こえてくる。

 かつては血で洗った大地が、今は花と緑に溢れている。


 「余が夢見た景色だ。いや、余一人では決して見られなかった景色だ。お前がいたから、ここまで来られた」


 ベリアルがレオの手を取り、薬指に輝く指輪に口づけを落とす。


 「ありがとう、レオ。余の人生に現れてくれて」


 「……よせよ。改まって」


 レオは照れて顔を背けたが、握り返す手には力を込めた。


 「俺だって……お前に会えてよかった。勇者なんて肩書きより、お前の番であることの方が、ずっと誇らしいよ」


 二人は静かに見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。

 風が吹き抜け、木々を揺らす。

 その風は、かつての戦場の臭いを運ぶことはない。

 未来へと続く、希望と愛の香りだけを乗せて、どこまでも優しく吹き渡っていく。

 二人の物語は、歴史書の一ページとなり、やがて伝説となるだろう。

 だが、彼らにとっては、これはまだ日常の続き。

 愛しい番と、愛しい子が織りなす、かけがえのない毎日のワンシーンに過ぎないのだった。

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【BL】最強のオメガ勇者ですが、規格外のアルファ魔王に捕まって極上の溺愛魔力供給を受けています。〜絶対に屈しないはずが〜 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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