番外編 第3話「小さな覇王の誕生」
その日は、季節外れの嵐が魔界を包んでいた。
雷鳴が轟き、城の窓ガラスがガタガタと震える。まるで世界そのものが、新たな強者の誕生に怯えているかのようだった。
寝室からは、レオの苦悶の声が響いていた。
「ぐぅ……ッ。ああああッ」
「頑張れ、レオ。あと少しだ。呼吸を乱すな」
ベリアルはレオの手を握り締めていた。
岩をも砕く魔王の握力が、今は壊れ物を扱うように繊細に、レオの痛みを分かち合おうとしている。
出産は壮絶を極めた。
胎児の魔力が強すぎるあまり、レオの体内の魔力回路が暴走しかけていたのだ。
ベリアルは自身の魔力をレオに流し込み、暴れる力を必死に制御していた。
「しっかりしろ。余がついている。お前は死なせない、絶対にだ」
「うる、さい……。命令、するな……。俺は、負け……ない」
レオは脂汗にまみれながら、歯を食いしばっていきんだ。
勇者としての意地。母としての強さ。
その全てを振り絞り、最後の力を込める。
雷鳴を掻き消すほどの、力強い産声が響き渡った。
「……生まれた……」
レオの身体から力が抜け、シーツに沈み込む。
産婆役の魔族が、震える手で赤子を取り上げた。
「お、おめでとうございます……。元気な、男の子です」
泣きわめく赤子からは、黄金と漆黒が混ざり合ったオーラが立ち昇っている。
ベリアルは恐る恐るその小さな命を受け取った。
自分の掌よりも小さな体。
けれど、そこには確かに自分とレオの血が流れている。
「……レオ、見ろ。我らの子だ」
ベリアルがレオの隣に赤子を寝かせる。
レオは重いまぶたを開け、ぼんやりとした視界で我が子を見た。
金色の髪に、ベリアルと同じ真紅の瞳。そして額には、小さな小さな角の突起があった。
「……変な顔。猿みたいだ」
「何を言う。世界一美しい赤子だぞ」
ベリアルは声を震わせ、そしてボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「おい、泣くなよ……魔王だろ……」
「泣いてなどいない……ただ、汗が目に入っただけだ……」
ベリアルはレオの額にキスをし、それから赤子の頬にそっと指を這わせた。
赤子がその指をぎゅっと握り返す。
圧倒的な体格差。魔王の指一本ほどの小さな手。
だが、その力強さは、確かに未来を掴んでいた。
「よくやった、レオ。ありがとう……本当に、ありがとう」
「……ああ。これからも頼むぜ、パパ」
嵐はいつの間にか去り、窓の外には美しい虹がかかっていた。
最強の家族の、新しい物語が始まった瞬間だった。
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