寓話[2]: 秩序の双児

fuwafuwaGT

秩序の双児

故も知らぬ、双児が捨てられていた。


穢れ一つ無い、真っ白な絹の布に柔らかく覆われ、ただ身を寄り添い合って眠っていた。


いつしか双児は拾われ、街の者が代わる代わる面倒を見た。


その経験は、彼らが人の世は何たるかという、広い視座を育てたと言う。


そして彼らは、人の世の苦しみを見た。


病にて幼子を亡くした若妻。


飢えと貧困の連鎖から抜け出せぬ一族。


人の世の為を思えど、何の力も持たざる者。


苦しみはあらゆるものに形を変え、人の世を呪い続けていた。


いつしかその双児は聖職者となり、人の世に救いを与えんとした。


教えを学び、修行を重ねていったが、双児の兄はあるとき忌まわしき予感に気づく。


どのような神も、我々がなぜ苦しむかを説かぬ。


兄は、この天啓に狂った。


来る日も来る日も寺院に籠り、忌まわしき予感を得た自身を呪った。


堪えきれず、彼は狂気の果てに自らの右手の指を全て切り落とした。そして、左の小指と薬指を切り落とした時、弟子に止められた。


弟は、この天啓に深く絶望した。


水も喉を通らず、彼の四肢は枯れ枝のように色褪せ、細く朽ちていった。


弟子が飯を運べと頑なに拒み、ただ縁側で胡座をかいて、虚ろな眼で庭を見つめ続けた。


あるとき、僅かにも動かぬ弟を案じ、兄が側に行き、声をかけた。


が、返事などなく。弟はただ、物のように庭を見つめていた。


兄と弟は、何日もそうした。


来る日も来る日も、飽きることなく、庭を二人で見つめ続けた。


自らに終わりが訪れるまで、そうするつもりだった。


ふと兄が、聞いた。


生命は、あまりにも救われないと思わぬか。


どうして、生きるということはこんなにも苦しいか。生命には最早苦しみしかない。そうは思わぬか。


弟が、その乾ききった唇を動かし、ようやっと口を開いた。


秩序が、ある。


何を思ったか弟は立ち上がり、その手で庭の土を掘り始めた。


兄は慌ててそれを止めに入った。


この寺院に愛らしい老犬が住み着いていたのだが、つい先日亡くなり、この庭に埋められたのだ。


弟が掘っていたのは、まさにその老犬の墓であった。


兄の制止を振り切り、弟は墓を掘り起こした。


そして、土の中にあった老犬の亡骸を指さした。そして言った。


秩序があった、だが今はもうない。


生命は秩序を、己の内の熱を、失ってはならない。


その熱は、他の何かから奪わねば賄えない。火を灯し続けるには、薪を焚べなければならない。


奪い、奪われ、燃やし、燃やされる、この円環こそが、我々の呪いだ。


そして殆ど骨と化していた亡骸にそっと触れて言った。


ああ、こんなに冷たくなってしまって。土の温度と変わらないではないか。


そうして弟は日が何度暮れても、その犬の亡骸を撫で続けた。


兄は、そうしている弟をずっと抱きしめ続けていた。


そして今、この庭に老犬とその兄弟が、安らかに眠っている。

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