第6話
朝日は無慈悲なほどに明るく、中村彩葉の惨状を照らし出していた。
村中を埋め尽くす物言わぬ死体。そのすべてが、かつて自分を忌み嫌い、そして自分が愛そうとした隣人たち。
彩葉は村長の家の縁側に座り込み、真っ赤に染まった自分の手を見つめていた。
『あはは……あはははは!』
乾いた笑いが、空っぽの村に響く。
もう面白いことを言っても、誰も耳を塞がない。もう変な顔をしても、誰も石を投げてこない。
世界でたった一人になった”面白い女の子”は、絶望のあまり、心が真っ白に燃え尽きようとしていた。
その時だった。
「──あまりに、腹を空かせすぎたな。狼よ」
澄んだ、鈴の音のような声が響いた。
彩葉が顔を上げると、そこには一匹の大きな白い犬が立っていた。
その瞳は慈愛に満ち、同時にすべてを見透かすような冷徹さを宿している。村に古くから伝わる、理性と忠義を司る”犬の神様”だった。
『……神様? お願い、私を殺して。こんなの、もう嫌だよ』
彩葉は縋るように泣き崩れた。
しかし、神様は首を振った。
「お前を殺しても、この地に染み付いた怨念と、狼の呪いは消えぬ。いずれまた別の村で、別の少女が同じ星を呑み込み、同じ惨劇を繰り返すだろう」
神様は静かに杖を振るった。
すると、村を覆っていた血の匂いが、不思議なほど甘い”金平糖”の香りに変わっていく。
地面に転がっていた死体たちが、陽炎のようにゆらゆらと立ち上がり、その姿を小さな
”記号”へと変えていった。
「彩葉。お前の孤独も、村人の恐怖も、この悲劇のすべてを私が引き取ろう。そして、誰も傷つかぬ”箱”の中に封じ込める」
神様の力によって、村の風景が、彩葉の記憶が、そして”狼”の力が、一枚、また一枚と、薄いカードへと姿を変えていく。
最後まで彩葉を疑った者は”占い師”の札に。
彩葉を殺そうと武器を取った者は”騎士”の札に。
そして、夜ごとに人を喰らった彩葉は、恐ろしくも悲しい”人狼”の札に。
「これは、繰り返してはならぬ戒めの遊戯。人々がこの物語を”遊び”として語り継ぐ限り、現実に狼が目覚めることは二度とないだろう」
彩葉の意識が遠のいていく。
最後に見たのは、神様が丁寧に木箱の蓋を閉める光景だった。
箱の表には、こう刻まれていた。
──”人狼ゲーム”
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