第21話
「もう、終わりですね」
「どうかなぁ。まだブタ教祖は生きてるかもよー」
天使様がおどけて言う。
「どうせ、こんな感じになってるんでしょ?」
私は無残な死体になったマルコを足でこづきながら答える。不思議なものだ。あんなにも殺してやりたかったのに、今となってはそんな気持ちが微塵も残っていないのだから。
「へへー、まーねー」
「天使様は、本当に天使様だったんですね」
「およ? てっきり悪魔様と言われるかと」
「いえ、天使様ですよ。少なくとも、私にとっては」
「いやぁ、照れるなぁ」
天使様は得意げに鼻を鳴らす。その姿があまりにも可愛らしかったので、私は思わず笑顔になる。
そんな私に、天使様は両手を広げる。
「おいで?」
その言葉に、私は逆らわない。迷うことなく、天使様に抱きつく。迷子の末、愛する母親と再会した子供のように。
濃い血の臭いがする。でもそれが天使様の匂いだと思うと、不快ではない。むしろずっと嗅いでいたくなる。
「ごめんね」
「なにが、ですか?」
「仇、取りたかったでしょ?」
「全然、どうでもいいです」
「そっかそっか」
天使様が私の頭をよしよしと撫でる。今思うと、私はずっとこうして欲しかったのかもしれない。
「天使様」
「なぁに?」
「わがまま、いいですか?」
「いいよ、なんでも言って?」
私は一度息を吸い、意を決して言う。
「出して」
「……」
「私をここから出して!」
静寂に包まれた聖堂に、私の悲鳴に似たわがままが響く。
でも、天使様をそれを笑うことなんてしなかった。
「分かった」
「……」
「約束、したもんね」
「……ありがとう」
「それじゃあ、目を閉じて」
私は天使様から少し体を離し、その目を見つめる。もう目を開くことがなくなっても、決して忘れないように。
そんな私の頬に手を添えて、天使様が唇を近づける。
「目を、閉じて」
私が目を閉じると、私と天使様の唇が重なった。そして、優しく天使様の翼が私を包んでいくのを感じる。
これで、終わりかもしれない。
でも、不満はない。
だって、こんなにも、こんなにも、私は満たされている。
天使様の涎と血の味が口の中に広がっていくのを感じながら、私の意識は霧散していった。
後に残るは、空っぽの聖堂と赤い天使の羽のみである。
完
ここから出してと天使は言った ビト @bito123
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