第5話 ナンバーワン魔法少女
「フェアリーチェンジ!」
そう叫ぶとステッキから溢れた光が私を包み込む。その光は形を得て、私に魔法の力とキラキラした可愛い衣装を与えた。
黒色の優等生ヘアスタイルは水色のウルフカットに。シワひとつない制服は、青と白を基調にしたボディラインがくっきり出るドレス型のフリフリコスチュームに。ヘアピンだけだったアクセサリーは、首には黒いチョーカーが巻かれ、夜空のようなグラデーションのオペラグローブを手に装着。黒いローファーは藍色のヒールに。灰色の瞳はさわやかな空色に。そして極めつけにふわふわの狼の尻尾と耳が生えている。
まさしく魔法少女の青担当という姿。我ながら可愛くてイケてる。
「いちか……なの?」
姿がほとんど別人になった私に、華猫さんは驚きを隠せていない。さすがの天才もこの状況を前に理解が追い付いていないみたいだ。
「なんか、すごくえっち」
意外と余裕あるわねアンタ。確かに首回りとお腹の肌が見える露出の多い衣装だけど、可愛いさに目を向けて誤魔化してるの。そう言われると急に恥ずかしくなるからやめてちょうだい。
「最初は雑魚の片付けから」
ステッキを振るい、無数の大砲を出現させる。空色と白色で可愛く塗られているが、有り余る兵器感は全く誤魔化せていない。私がステッキで空を指し示すと。大砲も同じ方向に照準を定めた。
「一気に消し飛ばす!」
大砲から無数の光の玉が発射され、空に浮かぶ大量の黒い球体を砕いた。ドラゴンにも何発か当たったようだけど、効いている様子はない。
「やっぱ、ボスは直接叩かないとダメね」
黒い球体が全滅し、残るは大ボスのドラゴンのみ。遠距離攻撃ではなく、直接叩きに行かないと倒せそうにない。そう判断してステッキから高密度の魔力で作ったブレードを生やした瞬間だった。
背後から風を切る音が聞こえてきた。このままではまずいと本能に訴えかける危機感。反射的に振り返ると巨大な光球が高速で迫っていた。咄嗟に華猫さんと黒猫をシールドで囲む。それは間に合ったが、自分を守るシールドは間に合わなかった。光球が直撃し、背後の壁まで弾き飛ばされ、黒い壁は大きくへこんでひび割れた。
「いちか!」
「平気!」
嘘。全然大丈夫じゃない。体中が痛いし、立っているのも辛いし、視界もはっきりしない。でも、ヒーローは弱音なんて吐かない。守るべき人を不安になんかさせない。
「言ったでしょ。私が絶対守るって」
どんな時でもヒーローは笑うんだ。魔法少女としての誓いで自分を奮い立たせる。光球が飛んできた方向を見上げれば、割れた卵から羽が生えている黒い怪物が何十体も飛んでいた。大きさはヘリコプターくらいだろうか。普段の戦いならボスになるような奴が大量にいる事実に眩暈がする。
でも、私は絶対に負けない。ナンバーワン魔法少女として華猫さんと黒猫を守り切るんだ。
「待って!」
ステッキのブレードを構えて飛び立とうとした瞬間、華猫さんが叫んだ。
「いちか一人で行かせない。あたしだって、いちかを守りたい!」
立ち上がってそう叫ぶ彼女の目から恐怖は消え失せていて、代わりに力強い意志がこもっている。でも、力がないと戦えない……そんな私の常識なんて、彼女には通用しないことを忘れていた。
華猫さんの想いに呼応するように目の前が虹色に輝き出す。そしてその輝きが眩い光を放ちシールドを砕くと共に、光が形を成してピンクのハート型のステッキになった。
「フェアリーチェンジ!」
華猫さんは迷わずステッキを手に取り、変身の合言葉を叫ぶ。その言葉と共にステッキから光があふれ出し、彼女を包み込む。そして光は形を得て、先ほどまで無力だった少女に戦う力を与えた。
腰まで伸びる金色の長髪は鮮やかなピンクに変わり、赤いリボンで結ばれたツインテールに。少しよれた制服はピンクと白を基調にしたお姫様のようなフリフリのドレスに。黒いローファーは赤いヒールシューズに。橙色の瞳は深みのある桃色に。そして極めつけに白いネコミミと尻尾が生えている。
まさしく魔法少女のピンク担当。みんなが思い描くようなヒーローがそこに立っていた。
華猫さんも魔法少女に。でも、それ以上に私を驚かせたのは彼女の魔力の圧だった。私が出会ったどの魔法少女よりも、ナンバーワン魔法少女の私よりも強い魔力。どこまでも彼女は天才だった。
「いちかをいじめるなー!!」
そんな私の驚きなんていざ知らず、彼女はそう叫ぶと同時にステッキを天に振りかぶる。ステッキからは極太の光線が放たれ、彼女がステッキを振りかぶった軌道上にいた怪物……つまりすべての怪物を消滅させた。
ボスを倒したことで虹と黒の空間が消滅し、さっきまで私たちが居た駐輪場に戻される。もちろん変身は解除されて、普通の女子高生の姿に戻っていた。
「華猫さん、あなた……」
「きゅう」
「え、ちょっと!?」
改めて現状を整理するために華猫さんに声をかけると、彼女はふらりと倒れそうになった。なんとか抱きとめて声をかけるけど、すぅすぅと寝息を立て返事をしない。魔力を使いすぎたのだろう。初めての戦闘で加減を知らずに大技を使うという失敗に少し懐かしくなった。
「とりあえずベッドで寝かせるか」
眠り姫を背負って我が家に帰る。まだ体は痛むけど、彼女の羽のように軽い体なら……いや、全然重いわ。それもそうか。鍛えてる私以上の身体能力があるなら、ちゃんと筋肉が発達しているという事だ。軽い方がおかしい。
「みゃあ」
「わっ、あんたついてきたの?」
鳴き声が聞こえて足元を見ると、黒猫がてくてくとついて来ていた。助けてもらった恩を感じてるとかそういうのだろうか。確かに今は猫の手も借りたいけども。いや、猫ってこんな風に人間についてくるものじゃないでしょ。
「あんた何者なの」
「みゃう」
「……猫語はわかんないわよ」
どうにもこの黒猫のことも気になってしまう。不思議だとしか言えない雰囲気を纏ってるし、華猫さんと一緒にあの空間に居たし、普通の猫とは違う何かを持っているとしか思えない。ただ、この子の言葉を理解する術を私は持ち合わせていなかった。
なんとか自室までたどり着き、華猫さんをベッドに寝かせる。あどけない寝顔で規則正しい寝息を立てる彼女を確認して、私も一息つく。身体の傷は明日治してもらうとして、華猫さんが起きたらいろいろ説明しないと。
というか、この子はいつ起きるのかな。魔力は寝れば回復するけど、私が同じ状況になった時は10時間くらい眠っていた。彼女ほどの魔力を回復するためには何時間必要なのだろうか。それとも、回復スピードも速いのかな。
「んぅ、いちか……」
私が今後のことをいろいろ考えていたら、華猫さんがもぞりと身じろぎして寝言をこぼした。まったく、夢の中でも私かい。
いちかを守りたい。そう言って変身した。いちかをいじめるな。そう叫んで敵を薙ぎ払った。
「ありがと」
そう呟いて彼女の頭をそっと撫でる。私はこの子に守られた。どこまでも真っ直ぐな想いで私を守ろうとしてくれた。その事実がくすぐったくて、でも、感謝したら絶対調子に乗るし、だからといってありがとうを言わないわけにはいかない。だから、絶対に聞こえないタイミングで本心を言葉にした。
「……お腹空いた」
華猫さんの料理を食べるつもりだったから買い出しをしていなくて、現在の我が家には食べられるものがない。でも、戦いの傷が残っていて、コンビニに行く元気は残ってない。それにこの子と一緒に食べるという約束をしている。私一人で空腹を満たすのは筋が通らない。
「寝よ」
疲労回復のため、なによりも空腹を誤魔化すために、私は夢の世界に逃げることにした。寝苦しいから制服を脱いで、眠り姫と同じベッドに寝転ぶ。狭いベッドだけど、お姫様の蜂蜜のような香りとお日様のような体温が一瞬で私を眠りの世界に連れて行く。
その夜は華猫さんと一緒に花園でティータイムを楽しむ夢を見た。
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