第8話 魔法少女集合
「お加減いかがですか?」
「さいこー」
ふわふわの綿の塊に身体を沈み込ませ、身体に沁み渡る心地よい感覚を享受する。まるで温泉に浸かりながらふわふわの毛布に包まれ、全身をマッサージされているみたいだ。この幸せを与えてくれているのは治療担当の精霊、くまっち。赤いリボンを巻いたテディベアの見た目をしたこの子は、治癒能力のある綿を生成する魔法が使える。くまっちに頼めばどんな大怪我をしても治療可能だ。
「きもちよさそー。いいなー」
「華猫さんもやってもらったら? ケガしてなくても気持ちいいわよ」
くまっちの綿の治癒能力は本人からすればあくまで副次効果。本来の効果は気持ちよく眠れるベッドを作るというものだ。
「んー、いいや。ここでいちかを見てる」
「見て楽しいもんじゃないでしょ」
「好きな人はずっと見てたいじゃん」
綿に沈むを私を見下ろす彼女の目には、分かりきっているけど嘘なんてなくて、橙色の彼女の瞳はハチミツのようにとろりと溶けていた。いろいろありすぎて流していたけど、華猫さんは私のことが好きなのよね。……なんか、むずがゆい。
「あっ、いちか顔赤くなってる。照れちゃった? 好きになっちゃった?」
「うっさい。あんたみたいなアホに慣れてないだけ。好き好き言うだけの単純な戦略なんてすぐ効かなくなるわよ」
「うーん、そっか。じゃあ次の作戦を考えないとなー」
そう言いながら華猫さんは私から視線を外さない。ここまで本気の恋情も、それを隠さない胆力も、一番になるために手を尽くす諦めの悪さも、こんなに強い想いを向けられたのも初めてだった。だから、彼女の熱烈な視線で頬が熱くなるのは仕方のないことだ。
「そういえば、今度こそ二人だけのヒミツ、だよね!」
「ん? あー、それなんだけど」
「あっ、いたいた!」
「連絡、捜索、いっちー発見」
華猫さんが二人だけのヒミツに目を輝かせていると、私が答えを言う前に三人目と四人目の声が聞こえてきた。
「トラちゃんにすずめちゃん!?」
「よっ。ここにいるってことは、はじめちゃんが新しい魔法少女か」
「予感的中。はじーの魔法少女、解釈一致」
ストリート系のファッションのトラ子と可愛らしいフリフリの服を着たすずめが、驚く華猫さんとあいさつを交わす。二人にも新入りのことは共有すべきだと思って、学校を休んで来てもらったのだ。
「もー! 今度こそ二人だけのヒミツだと思ったのにー!」
悔しそうに華猫さんが頭を抱える。どんだけ二人だけのヒミツが欲しいのよ。まぁ、魔法少女の正体なんて秘密の代名詞みたいなものだし、大きな期待が裏切られたと感じるのも仕方ないか。
「逆に考えなよ。大好きな人のヒミツを私らに独占されなかったって」
「確かに! トラちゃん天才!」
「天才美少女からの天才、これは大変光栄だね」
騒ぐ華猫さんをトラ子がなだめる。さすが教師志望。駄々をこねる子供の相手はお手の物だ。
「……いちかが好きってこと言ったっけ?」
「恋する乙女の目をしてたからな」
「説明不要、察知可能」
恋する乙女って、学校でそんな顔してたっけ。放課後から今日までいろいろあって彼女の好きが本気だと分かったけど、二人は学校で一日一緒に居ただけだ。どこで彼女の恋心に気付いたのだろうか。……なんかトラ子が温かい眼差しをこっち向けてた気がするけど、見なかったことにしよう。
「せっかくだし、私らの変身した姿を見せとくか」
「情報共有、仲間の証」
二人はそう言うと正面に手をかざしてステッキを出現させた。トラ子は黄色のリボンが巻かれた橙色のクローバーのステッキ。すずめは黒いリボンが巻かれた白い三日月のステッキだ。
『フェアリーチェンジ!』
二人は慣れた様子でステッキを構え、声を重ねて変身の合言葉を唱えた。ステッキから光があふれ出し、二人を包み込んで段々と光が形を得ていく。そして、その魔法は彼女たちにふさわしい魔法のコスチュームを与えた。
トラ子の茶髪は太陽のような橙色のショートヘアになり、黒い瞳は眩しい黄金色に輝く。ストリート系の普段着は動きやすそうなオレンジ色のノースリーブミニワンピースのフリフリコスチュームに。クローバーの意匠が施されたティアラが髪を彩り、橙色のブーツが堂々とした彼女の出で立ちを支える。そしてオレンジと黒のトラの耳と尻尾が生えていた。トラ子によく似合う、溌溂とした印象を与えるカッコイイコスチュームだ。
すずめの銀髪は眩しい純白に染まり、地面についてしまいそうなほど伸びていく。深い青の瞳は深紅に染まり、フリフリの普段着は西洋の人形のようなふわりとした白黒のドレスに。ミニサイズの冠を頭に乗せ、黒い厚底ブールでほんの少し身長アップ。そして白い鳥の羽が生え、キラキラ輝く羽毛が舞っていた。すずめに似合った、静謐で愛らしいコスチュームだ。
「二人とも可愛い!」
変身した二人を見て華猫さんが歓声を上げる。やはり、変身シーンというのはいくつになっても興奮するものなのだろう。私も何度も見てるけど、並んだ二人を見ると心の中の女児魂が昂る。
「じゃあ私も変身しよっかな! ん?」
華猫さんがステッキを構えた瞬間、部屋にサイレンの音が鳴り響く。これは緊急出動の号令だ。綿のベッドから起き上がると、シャドウのもとに続く白い魔法陣が目の前に出現した。
「ケガは大丈夫なの?」
「心配し過ぎ。とっくに完治してるわ」
守りたいと思ってくれるのはありがたいけど、あまり私を見くびらないで欲しい。たとえケガしてたって、私一人でシャドウを全滅させられる。でも、言葉で伝えたところで重傷を負った私を見た華猫さんは納得しないだろう。ここはひとつ、彼女に私の本当の力を見せてあげよう。
「行くわよ!」
華猫さんに心配無用だと答えて、みんなで一緒に魔方陣に飛び込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます