第194話 見えた先

 ラシアの視線の先には空間を曲げて繋いだような穴がある。そこにはラシアの目的である深淵のダンジョンが映っている。


 そしてやはり……超級であり最高の難易度だけあって、流れてくる空気にも桁違いの圧力を感じる。


 置いてあった魔石にピシッとヒビが入ったと思ったら、見えていた入り口はポータルとともに消えてしまった。


「ラシア。今のが目的のダンジョンで合っていますか?」


「はい。あれが……私の目的の深淵のダンジョンですね」


 入り口は閉じてしまったが、冒険者としての本能が危険を告げているようで、ノアやグオンといったクランメンバーはポータルがあった場所をずっと見ている。


「私が住んでいる所に比べればずいぶんと禍々しいといったところですが……人間があのような場所に入っても大丈夫なものですか?」


 その辺に関してはラシアも分からないとしか言えない。ゲームと同じなら何の問題もないが……変わっている所などいくらでもあるからだ。


 ただモンスターの強さに関してだけはほぼ同じぐらいだ。ゲームなら超級のボスのレベルは一律で100、雑魚モンスターでも90台後半だ。プレイヤーによって得手不得手はあるが……だいたいどこでも同じぐらいなのが超級だ。


 まぁレベルといっても設定資料に書かれていた数字なので、あってないようなものだ。


 実験が終わり、できることが見えてきたガロニアは錬金術師達を連れて所内へ帰っていった。クランメンバーが「すごかったね!」と話しているとセレットがラシアに話しかける。


「ラシアちゃん。今のダンジョンが目的って言ってたけど……人が入って良さそうな雰囲気はしなかったけど……」


「まぁー。超級ダンジョンって神様のなり損ないがいるって設定……じゃなくて話なので……」


「え!? 神様がいるの!?」


 競馬が好きだった祖父なら中山で見たとか答えるな……とか言いたくなるが、魔神種というモンスターがボスにも通常のモンスターにもいる。


 そういうのが出て来て、数が一番多いのが深淵のダンジョンだ。


 他の超級ダンジョンのボスもほとんどが魔神種で、地星にいたヴェユリテスアなんかもこの系統になる。あれがフェリスロステの本来の姿かもしれないが……さすがに禍々しすぎる。


「……ラシアちゃん。私思ったんだけど、深淵のダンジョンって見つかってないわけじゃなくて、国が行かせないように隠してあるんじゃない?」


 それはラシアも思っていたことだ。他のダンジョンが開放されているのに、なぜ深淵のダンジョンだけが見つかっていないのか? と思っていた。


 だけど国が隠しているのなら、できることもある。


「私もそう思いますけど……国が公表していないなら、勝手に入って『知らなかった』ができますからね。さすがに立ち入り禁止と言われたら入りませんけど」


「う~ん……まぁ。国が本当に知らない可能性もあるからー。いいのかな?」


「大丈夫でしょう。ぶっちゃけこの研究所にも国の人とかいるでしょうから、よっぽど駄目な時は通達が来ると思いますよ。大公いわく天使の国にもいっぱいスパイがいるって言ってましたし」


「人の口は塞げないっていうからね~。まぁ今日あったことは伝わるか。フェリスロステ様もいるし、どこかに目はあると思うし」


「錬金術師の人達が捕まってないので大丈夫です!」


「それを言われると言い返せない!」


 それから少し話をしたあと、ルインエルデへ向かう錬金術師達がいたので、その護衛をしながらラシア達は街へ帰還した。


 街に着いたのは少し暗くなり始めた頃で、手続きなどはノアがやってくれるとのことなのでラシアはティアを連れて宿へ戻った。


 そしておやっさんに夕食を作ってもらい、ティアやセレットと一緒に食べながら今日のことを話していると少し外が騒がしくなった。そのあとキングが帰ってきたが……何かコアラが多い。


「キングさんは良いけど……なにかコアラコアラしてない?」


「セレットさん。言いたいことは分かりますけど……」


「うむ。本日、朝からクッキーを焼いて販売し始めたのだが、ありがたいことに盛況でな。人手? コアラ手が足らんので家臣の者達を呼び出して手伝わせた」


「街中でモンスターを召喚したら駄目なんですが?」


「法の穴を突くつもりはないが、人がアイテムなどを使いモンスターを召喚してはいけないとは書いてある。だが、モンスターがモンスターを召喚してはいけないとは書いてない。それに我を獣人扱いとするなら、家臣達は召喚獣という形を取れば問題はないのでな」


 なぜ……この街に来て数日のコアラが法律に詳しくなっているのかと思うが……ローウェンテニアの王女様ことリレッサもなんかすぐに覚えていたので、知り合いの王族はこういうものなんだろうとラシアは色々と諦めた。


「それで? そちらの方はどうであった? こちらは今言ったように盛況なのでな。数日もあればラシアに借りた金は返せるので安心してほしい」


 なぜ……この街に来て数日のコアラがすぐにお金を稼げるのかと思うが……以下同文。


 そして簡単にだがキングに水晶の泉のことを話していると、セレットに不思議なことを言われた。


「ラシアちゃんって、人にはすごい人見知りなのに……言い方は失礼だけど人外の方とは普通に話をするわよね?」


「え? そうですか? まぁコアラと妖精ですからねー。しかも顔なじみですし」


「うむ。コアラであるな。我はコアラでありそれ以上でもなくそれ以下でもないので、話しやすいというのはあるかもな!」


「私も妖精ですし、ラシアとは古くからの友人ですからね」


「なるほどー。ラシアちゃん今でも知らない人に話しかけられそうならガチ逃げするしね」


「最近進化して話しかけられる距離が見えるようになったから、その距離には近寄らないってラシアさん言ってた!」


 確かにできるようになったが……全員の何とも言えない視線がラシアに突き刺さり、何とも言えない気分になる。そんな時、ラシアセンサーがこの宿に近づいてくる者を捉えた。警戒していると……デゴットが奥さんを連れてやってきた。


「おやっさんはいるか!? 適当に二人分の料理を頼む!」


「おい。デゴッパチ。奥さんまで連れてくるな。しかもおやっさん言うな」


「気にするな。あとはラシアに女王陛下と陛下か。簡単にこの街が落ちるな!」


 デゴットは元気よく笑う。デゴットはおやっさんの友達なのでいいが、奥さんの方はバリバリの貴族なので、問題があってはいけないとセレットが近くへ行って相手をし始めた。


 どうやら仕事でルインエルデに来ていたらしく、そのついでにラシアへ相談と依頼をしに来たとのことだった。


 相談事というのは大公がボスモンスター名鑑を手に入れたことと奪われたこと。そして名鑑の一つをどんな実験に使うのが良いかということだった。


「なるほど、それで錬金術ギルドが金を持ってたのか」


「研究所でも見に行ってたのか? 悪いことしてなかったか? あいつらすぐになんかやらかすからな」


「一回完全武装で包囲した方が良いですよ」


「たまにやってるが巧妙に隠すからな。それで話は戻るが……」


 フェリスロステとコアラキングのおかげで、たぶんだが召喚されるボスモンスターは同一の者だというのは分かる。ただキングは時間湧きのボスモンスターで、フェリスロステもヴェユリテスアとほぼ同じ力を持った者だ。ダンジョンを守るボスモンスターでは試していないことが気になる。


 だからラシア的には雑魚でいいので、部屋を守っているボスモンスターで試してほしいところなのだ。


 そのことに関してはデゴットも同意見なのだが……簡単には了承できない不確定要素がある。


 ダンジョンの外でダンジョンに住む者達を殺せば記憶はリセットされるが……それが本当にモンスターにも適用されるかは確信がないのだ。


 だからこそ、不用意にモンスターを連れ出して倒し、記憶がリセットされなかった場合、モンスターは外の世界を覚えて出ようとする。これが一番駄目だという話だ。


「一度は試してみたいが……ボスモンスターでは試したことがないからな。大昔にはあるかもしれないが……その記録は残ってない」


「でも……モンスターで試してボスモンスターで試してないとも考えられないので、どこかの国ではやったことはありそうですけどね」


「その結果、国が滅んだなんてことも十分にあり得るぞ……」


 二人が悩んでいるとそのヒントをキングが教えてくれた。


「我の配下で人間に呼び出された者がいたという話はしたであろう? 外で倒されてもダンジョンに魂のようなものは戻ってくる。そして一日経てば復活する。そこでお前達が気にしている記憶だが、ほぼ忘れている。我を主とするようなことなどは覚えているがな」


 その配下はモンスターとしての行動などは覚えているが、外に出て倒されたというようなことは覚えていなかった。ただ重要なのは全てがゼロになっているわけではないということだった。


 食事で例えればパンとシチューを食べたことは忘れるが、食事をしたことは覚えている感じだ。


 同じように、倒されれば外に人間の世界があることは忘れるが、外になんか別の世界みたいなのがなかった? という記憶はうっすら残る。


 だから……それに違和感を覚えるモンスターがいれば、出てこようとするということだ。


「我はそのボスモンスターというものまでは詳しくは分からんがな」


「ってことは迂闊に連れ出すのはやめた方がいいか……」


「そうだな。そうなるとボスモンスター名鑑は無駄遣いせずに置いておくのが無難か。どうせそのうちにゼレストニアとか天使の国で召喚されそうだしな」


「それはそれで大問題ですけどね……」


「そうなったら名鑑を無駄遣いせずに、ボスモンスターがいなくなったダンジョンを確認できるからな。まぁ悪いが、その時はまたラシアに行ってもらうことになるがな」


「はい。その辺はことがことだけに行きますけども……」


「お前もう俺の代わりに騎士団長やってくれよ。俺は騎士団とか聖騎士の雑用をするから」


「絶対に嫌です」


「ラシアが団長の騎士団なら死を呼ぶ兵団の完成であろうな。今はなきローウェンテニアを思い出させるな!」


 そのタイミングでおやっさんが料理を持ってきたので、デゴットはそれを食べ始め、ようやくラシアに依頼の内容を告げた。


「ラシア、悪いが緋闇のダンジョンに行ってくれ。パルサーを、すぐ進化するラビットマンバリスタの調査と屋敷のダンジョンの月齢の王の討伐に行かせるんだが、少し心配でな。監督を頼みたい」


 カグヤちゃんかカグヤちゃんDXになった時の倒し方は伝えてある。けっこうきついが、メンバーさえいればカグヤちゃんなら何とかなるとは思う。ただ……緋闇のダンジョンの奥にある屋敷のダンジョンに問題があるのだ。


「あそこの月齢の王ってコールベルだから……私が行くと下手すれば難易度が跳ね上がるから無理ですよ?」

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2026年9月7日 07:08

ロマン職は異世界から帰りたい 庶民ザウルス三世 @syominzaurususansei

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