第63話 勇者が勇者になった理由2
シリウスの伝記、実家追放までを読みきった勇者は真顔だった。普段ニコニコしている男が無表情になると、とても怖い。
パタンと本を閉じた勇者は無言でシリウスを見た。
「……………」
「私は切り捨てタイプでな。復讐だとか仕返しだとかで自分の時間を奴等に消費するのが勿体なくて放置していたんだが、居なくなってくれるなら嬉しいぞ」
本心だった。
ほぼ無関心ではあるが、没落したと聞いたら『ザマァ』と思うくらいには忘れていない。シリウスは根に持つタイプなので。
むしろ暴力的な虐待をしてくれていた使用人や異母兄弟達が不幸になるなら大歓迎だと思っている。
「――20年前になります。僕らの村は、共和国の端のほうにありました。帝国の侯爵家の分家というか、教授の異母兄、確か次男でしたかね。そいつに与えられた子爵家の領地が、距離は離れてましたけど地図的には隣で、僕らの村がある領地の領主様の娘を寄越せとか、そんな要求をしていたのだと後で聞きました」
淡々と話し出した勇者だが、その話を聞いてシリウスは『思いっきり他国に喧嘩売ってる!?』と異母兄の信じられない馬鹿さに驚いていた。
補足しておくと、国境というか、関所はきちんとあったのだが国境全体に壁を作れるわけではないので、そういう『外れ』の位置に勇者達の村はあったのだ。
「断られた帝国子爵は見せしめとして僕らの村を焼いたんです。日中に、堂々と、子爵家の兵を使って」
「は?」
そんなことをすれば戦争になってもおかしく無いが、例えシリウスが10歳の頃だとしてもそんな話は聞いたことがなかった。
「いや、そうか。共和国はその頃帝国とことを構えられるほどの力はなかったか」
つまり、無かったことにされたのだ。
「はい。当時、何も知らなかった、普通に日常を過ごしてただけの村人達は抵抗する間もなく全員が殺されました。僕らは、子供達は森で薬草採取を任されていて……」
「……まさか、村人が殺されるのを見たのか?」
「そうです。僕は、動けなかった。怖かった。泣いて、やめろと叫びたかったのに声も出なかった。走って行こうとする皆の服を握りしめて、父も母も、村の皆も、見殺しにすることしか出来なかった……」
それは後悔だった。
優しかった人、厳しかった人、父も母も近所のおじさんも、皆を見殺しにし、止めに走ろうとした友人たちを引き留めてしまったという勇者の後悔だった。
「村は燃えました。僕らはどうにか隣村に行って、領都に行って、領主様に伝えました。村を焼いたやつを捕まえてくれって。その頃の僕らは領主様が絶対的な存在で、領主様に出来ないことは無いんだと思い込んでいたんです」
「子供で村しか知らないのなら、そうだろうな」
「でも、領主様は捕まえてくれなかった。僕らに村を焼かれたことを忘れろと言った」
今の勇者はわかっている。領主は絶対的な存在では無いし、忘れろと言ったのも帝国子爵家が共和国の村を焼いたと言いふらせば勇者達が消される可能性があったので守ろうとしたのだと。
「僕らはどうやって生きれば良いのかわからなくなった。あの時村の人達と一緒に死ねば良かったんだと思うようにもなった。でも、孤児院に入れられて無感情に日々を過ごしていたらある噂を聞いたんです。最年少でS級になった冒険者がいると、S級は国王すら気を使う相手だと」
(……あれ?俺のことか!)
しっかりと、涙に濡れながらも強い意思の宿る目でシリウスを見つめて勇者は語る。
「僕らにとっては希望でした。S級になれば、強くなれば、偉くなれば、帝国子爵家に復讐出来るかもしれないと気が付いたので」
「そうだな。むしろ子爵程度の規模ならA級でも更地に出来るだろうが、S級なら確実だな」
「あ、権力的な意味でです」
シリウスは強くなりたいと聞いた時点で真面目に物理で消す話だと思っていたのに急に梯子を外されて裏切られたような気持ちになった。
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