第62話 勇者が勇者になった理由


 公爵邸から出て港へと戻る途中、シリウスは気になったことを勇者に訊ねた。


「そういえば、勇者はどうやって向こうに帰るつもりなんだ?」


「………ハッ!どうやって帰ればいいんだろ?」


 勇者は、共和国のギルドから船食いの依頼を聞いて、仲間と共に帝国まで賢者の転移でやって来たのだ。

 聖女がまだ身動き取れないのでパーティーとしては休止中だが仲間達と冒険はしているので直ぐに動けた。


 仲間達は帝国側の港を守る為に活動しているが、勇者だけ別行動をとって商船に乗ったというわけだ。

 なんなら勇者ではなく防御に長けた騎士が船に乗った方が良いのではという意見も出たが、騎士は泳げない上に装備が重いので拒否した。


 因みにだが、仲間達は勇者なら空駆けスキルがあるし船を見捨てれば生きて帰れるだろうと、気軽に送り出している。


 そして、船食いが海上に頭を出しては消えてることに気が付いて、彼等の常識で理解出来ないことが起これば、それはたぶん『シリウスが何かやってる』と思うようになっているので、既に『間引きは終わったな』と帰宅モードであった。

 後は勇者が帰ってくるのを待つだけという段階になって「そもそもアイツどうやって帰ってくるんだ?」と慌てたのは言うまでもない。


 普通にシリウスが勇者を送ってくれると考えない辺り、彼等のシリウスに対する印象はお察しである。



「教授、転移で送ってくれたりは…?」


「ふむ」


 期待を込めてシリウスを見る勇者に、顎に手を当てて考えるシリウス。


 シリウスとしては特に断る理由もないし送ってやっても良いのだが、冒険者であるならばタダでやってやるのは如何なものかと思うのだ。

 むしろ冒険者であるからこそ親切な話はまず疑えと教わるので、対価を求めた方が気楽なのではないかと考えた。


「転移魔法を使うのは構わないが、対価として何か情報を……あぁ、君達が冒険者になろうと決めた理由とかでも構わないので教えてくれ」


 シリウスは勇者パーティーがとある村の幼なじみパーティーだとしか知らないし、興味もなかった。

 だいたい村人が冒険者になるなら憧れや村から出たいなどが理由なことが多いので、その程度の話で良いぞという軽い気持ちだったのだ。


「僕らが冒険者になった理由ですか……」


 そう言った勇者の顔は、悲しさや懐かしさを混ぜたような複雑な表情をしていた。


(いや、何故!?)


 勿論顔には出てないが、シリウスはそんな顔するほど重い話が出てくることあるかっ!?と内心驚いている。

 本気で『冒険者って強くてかっこよかった!』みたいなほのぼのとした理由だと思っていたのだ。


「教授、教授は……復讐って、どう思いますか?」


 勇者は真面目な顔で、その瞳の奥には暗い炎を宿してシリウスに問いかけた。


「すまない、仕返し程度のことはやっているが、復讐したいと思うほど何かを大切にした覚えも、執着した覚えも無い。なので一般的な話を聞いた上での感想になるがに迷惑をかけなければ復讐でも何でも好きにすれば良いんじゃないか?」


 真剣な勇者に真面目に答えはしたが、シリウスはこういうやつだ。予想外な返答に勇者は少し困ったような顔になった。


「……私に?」


「あぁ、私に。流石に私に迷惑をかけられたら止めるからな」


「………じゃあ、教授の異母兄弟が復讐相手だったら?」


 シリウスが元帝国侯爵家の庶子だという話は冒険者の間で割と有名な話しである。

 関わってシリウスと敵対することになったらたまらないので、シリウスの元実家は冒険者達に避けられているのだ。


「もう復讐したか?まだしてないのか?まだならさっさとやってしまえ」


「えぇ?いや、もう終わってますけど…」


 勇者にとってシリウスは恩人である。

 後になってその恩人の異母兄弟を殺していたことに気が付いて負い目を感じていたのだが、その本人が全く気にしていないどころか、復讐にとても乗り気なことに困惑しかない。


「ふむ。ちょうど良く無人のカフェのテラス席があるからそこで茶でも飲もう。詳しく聞きたい」


 元とは言っても家族だよね?と困惑する勇者を連れて、住人が避難して無人のカフェのテラス席で勝手にお茶の用意を始めたシリウス。


(勇者には俺の伝記を読ませた方が早い気がするなぁ)


 そう思ったシリウスは、椅子に座ってお茶を飲んで落ち着こうとしている勇者に、スッと本を渡す。


「その本は君にやろう。今は最初の方だけ読め、私が『家族』に対してどう思っているか理解出来る」


 虐待の歴史を詳しく話した上に、作者の文章の構成力の高さも相まってとても胸くそ悪い気分になると好評なのだ。

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