第61話 公爵のおもてなし
ざわめくギルド内ではあったが、それを聞いてギルドマスターが部屋からやって来たことで、シリウスの依頼完了は無事に受理された。
後々ギルドマスターから職員達に「嬉しいのはわかるが仕事しろ」とお叱りがあるのだが、シリウスの知ったことではない。
依頼は終わったし、さぁ帰ろうとシリウスが考えているとギルドマスターが公爵からの伝言をシリウスに伝えた。
「公爵様が緑玉の悪夢と勇者に食事用意してるってよ」
「は?」
「盛大なのは嫌がるだろうが、公爵領の為に働いてくれたS級をもてなさないわけにはいかないので、タダ飯食っていくくらいの気持ちで公爵邸に来てくれってよ。俺はちゃんと伝えたぜ!」
公爵は息子のおかげでシリウスに詳しい。確かに豪華な料理でもてなすと言われるよりはタダ飯食ってけの方がシリウスが了承する可能性としては有る。
勇者は勇者で貴族に対して良い感情は無いが、全てを『貴族だから』と拒絶するほどでもないし、タダ飯食ってけという公爵は面白いと感じている。
「タダ飯か」
「そういえばお腹空きましたね?」
というわけで、2人は公爵邸へとやって来た。大きくて豪華な屋敷という程度の感想しかないようだが、2人ともS級として貴族の屋敷には慣れているので緊張などはしていない。
門番にギルドカードを提示すれば、話が通っていたようで執事が迎えにきて、無駄な挨拶などもなく食堂へと通された。
「ここまでちゃんとご飯食べてってがご飯だけなのも珍しいですね」
「まぁ、基本的に挨拶からだしな」
「ウエスト公爵様って変わってますね」
「公爵についてはあまり知らないが息子は面白いぞ。友人が私の伝記を書きたいので、詳しく教えてくださいと、その友人よりも積極的に質問してきたからな」
「うわぁ」
2人はほのぼのと話しているだけなのだが、控えている公爵家使用人達は『若様っ……』と少し恥ずかしくなっていた。
(((うちの若様、教授のファン過ぎて恥ずかしい!!)))
使用人達が羞恥に耐えている間に、厨房から料理が運ばれて来た。公爵家に相応しいコース料理とかではなく、公爵家の特産を使って美味しく仕上げたランチセットである。
「旦那様より、豪華なコース料理よりもただ美味しい一回で全部テーブルに乗せるお昼ごはんをとオーダーされております」
「うわぁ、凄く美味しそう!」
「ほう?マグロカツとは、公爵家のシェフもなかなかやるな」
美しい赤身が残るレアに仕上げたカツにレモンを添えたメインに、魚介出汁のトマトスープとサラダ、そしてパンである。
とても普通の料理ではあるが、使っている材料は一級品であり、シェフの腕も一流という『高級な庶民ランチ』となっていた。
「うっま!え、野菜シャキシャキで甘さがあって美味しい!うわぁスープもなんか優しい!そんでもってマグロカツは初めて食べたけど美味しい!」
勇者が大はしゃぎである。
シリウスに犬耳とブンブン振られる尻尾が見えているくらいに大はしゃぎである。
(初めてオヤツ貰った仔犬かな?これで同年代なの信じられん)
魔力が多ければ外見が若見えするという研究結果は昔からあるものの、勇者の場合は精神的に若い気がして自分が年寄りのように感じてしまうシリウスだった。
(俺こんなはしゃげない。ちょっとブランディングが……)
それにしたって30歳でこれ?と勇者を見ていたシリウスだったが、柴犬だから仕方ないなと思考放棄した。
尚、喜ぶ勇者を見て使用人達もニコニコだった。喜んで美味しく食べてくれるお客さんは大歓迎なのである。
「美味しかったです!」
「旨かった」
食べた後は普通にお茶を飲むか聞かれたが、それは断った2人。
「すぐにお帰りになるのでしたらご案内いたします」
「よろしく頼む」
こうして本当にタダ飯を食べただけで引き留められることもなく、お土産にクッキーを渡されたあと入り口から見送られた。
流石公爵家、使用人への指示が徹底している。
S級2人はとても満足して公爵邸を後にしたのだった。
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