概要

謎の老婦人が残した一本の口紅。それは失われた私自身に繋がる色だった。
十月の冷たい雨が降る午後。巨大なデパートの化粧品売り場で派遣社員として働く28歳の「私」の前に、時代遅れのレインコートを着たひとりの老婦人が現れる。彼女が求めたのは、「濡れたアスファルトに反射する街灯のような色」の口紅だった。
『ミスティ・ローズ』――謎めいた客が選び、言い残した言葉に導かれるように、私自身もその口紅を手にする。ビル・エヴァンスのピアノが流れる静かな雨の夜、決して鳴るはずのない電話のベルが、平坦な日常の風景をわずかに歪ませ始める。受話器の向こう側の声が私に問いかけたのは、すり減った日々の中でいつしか忘れてしまった「本当の名前」だった。
都会の孤独と、どこにでもありそうな日常の底にぽっかりと開いた暗い裂け目を描く、静かで少しだけ不思議な物語。

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