祖母から受け継いだ梅干しの作り方を実践する、大学生の主人公。梅干しって、自分で作るとかなりの手間がかかります。しかも近年の暑さの中では重労働、雨が降っては台無しなので地域によっては天候との相談も必要です。祖母不在の家で、当たり前のようにそれをこなす主人公のもとへ、ある訪問者が。梅干しがいざなう、戦後の話。届けられたのはもしかすると、亡き曾祖母から、曾孫である主人公への、お礼でもあったのかもしれません。じりじりと照りつける太陽と、氷を浮かべた冷茶とが、静かなひとときを織り出します。近年はちょっと暑すぎますが、ある程度の暑さって記憶にも必要不可欠だったのだと、今さらのように気づきました。今作はぜひとも、この暑さのうちに読んでいただきたいです。
ナツガタリのコンテスト参加作品が、カクヨム内を席巻しております。
多くの小説が生まれ、書き手は全力で書き、読み手は全力で応援されている事でしょう。ですが、敢えて言います。
それだけが全てじゃない。
こちらは、とある自主企画に参加するだけの為に書かれた作品です。
現状のカクヨムムーブメントの中では、とてもマイナーかもしれない。
だけど、それは「小説の価値」を決める事とは何一つ関係ないのです。
素晴らしい小説です。
この夏、僕は惜しみなく最大の賛辞をこちらの小説に捧げます。
面白い作品はたくさんある。
捻りの効いた作品もたくさんある。
考えさせられる作品もたくさんある。
僕はこの8月だけで、異世界ファンタジーから短歌・エッセイなど含み多数の作品を拝読させて頂いております。そんな中で順列をつける事は出来ませんが、それでもこちらの作品を強く推させて頂きます。
素晴らしい小説です。
皆様にも是非お勧めさせて下さい。
宜しくお願い致します( ;∀;)
梅仕事の手順から始まって、祖母との暮らしの細やかな描写、
そして思いがけず訪ねてきた人を通じて戦後の記憶へとつながっていく流れが、とても自然で柔らかいのに、とてもしっかり私の心の中に浸透してきました。
現代の「私」の手元の作業が、曾祖母の時代の梅干し作りや、戦後の生活に直結していて、ひとつの家・ひとつの甕を通じて時代と人がつながっている感じがすごく詩的だと思います。
特に「新聞紙に見えた『戦後』」や「今年は戦後八十年」という符号が、物語を現在と過去に橋渡ししているのが、この物語をさらに鮮やかにしています。
人物の声もそれぞれ際立っていて、祖母の穏やかさと強さ、母や叔父の距離感、そして来訪者の誠実で張りつめた言葉づかいがしっかり区別されています。
正直、この辺が曖昧だと「誰の声?」となってしまう場合もあるのですが、
作者様はちゃんと読者が迷子にならないように整理されている、その辺の筆の力を本当に凄いと思いました。