最終話 真実の書き換え
サーバー室の重厚な扉が、主を失ってゆっくりと開放された。
そこには、無数の光ファイバーが神経のように巡らされ、都市の「価値」を定義し続ける巨大な心臓部があった。
「メイ、頼む。……あんたの腕の見せ所だ」
メイは震える指でメインフレームに接続した。彼女の首筋の端子が激しく発熱し、網膜に流れる膨大なデータの中から、たった一つの「消えかけた記録」を見つけ出す。
『登録番号:7742-G(妹)。……バイオ燃料換算:停止。……身分登録:有効(上層市民権)。……資産価値:プライスレス』
「……書き換えたよ、ギル。……私ら、勝ったんだね」
メイが力尽きたようにギルの胸に倒れ込む。
ギルの右腕は、もはや指一本動かない鉄の塊になっていたが、その左眼には、この世界のどんな高価な義体よりも輝かしい「希望」という名のログが流れていた。
【エピローグ:残価ゼロの夜明け】
タワーの窓の外では、夜明けの光が上層のプレートを照らし始めていた。
だが、その光は今までとは違う。
メイが流した「プレートの欠陥データ」により、上層の電力は下層へと逆流し始め、都市全体の価値基準が崩壊し、再編されようとしていた。
「……リィン、次の仕事の予定は?」
「……ギル。あなたの右腕は修理不能、バッテリー残量は7%。……ですが、新たな仕事の依頼が多数届いています。……『世界を再査定してほしい』、と」
ギルは重い右腕を引きずりながら、メイと共に光の中へと歩き出した。
鋼(はがね)の咆哮 @kkes
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