死神と呼ばれた魔女、お姫様を護衛する

鷲宮 乃乃@X始めました

出会いの章 死神の魔女とお姫様

プロローグ

「...またひとりぼっちか」


その呟いた声は誰にも届くことはなかった。

見渡す限り一面には死体が転がっている。腐敗臭がする戦場に一人佇む女がいた。

顔や服には血と泥がこびりつき、腕や足には無数の切り傷、彼女の銀色の髪には血がついている。


「ハハっ..こんなんじゃ、あの子に怒られちゃうな...いや、もういないじゃないか」


水面に反射する自分の見て、嘆く。

見れたものじゃない酷いものだと、彼女は笑う。

ふらふらと満身創痍の体を引きずって歩き続ける。行き先は誰にもわからないまま彼女は床に無惨に転がる死体の上を再び歩み始める。


「こんなクソッタレな世界...死ねよ」


激しい土砂降りになっても血の匂いは取れそうもなかった。






───十年後


コンコンと、玄関のドアを叩く来訪者がいた。

その者は白い修道服を見に纏い、パンや肉、キャベツなどなど食材が入ったバケットを手に持っている。


「サクナさーん!おはよーございまーす!あなた様の愛しの聖女、カノンが参りましたよー!!」


開けて下さーいと、騒ぐが扉は開く気配もなければそこに近づく足音すら聞こえない。


「むっ...今日は手強いですね、仕方ありませんね、強硬手段です!」


バケットを玄関横に置くと、大体このぐらいかと、距離を取り詠唱を始める。


「親愛なる精霊よ、我が身輝かせよ」


するとカノンの体は薄い光の膜で覆われた。息を吐くと意を決して扉をぶっ壊す勢いで突っ込んだ───はずだった。


「えっ!?あだっ!!...イッッッッッタ!!」


当たる直前に扉は開かれ彼女は驚いたが、時すでに遅し、床へと勢い余って頭を打ちつけたカノンはその場でのたうち回った。


「朝からウルサイ」

「イタタ...お、おはようございまーす、サクナさん」


パジャマ姿のサクナは倒れているカノンを見下ろすように覗き込んでは呆れたように話しかけた。


「お前さ近所迷惑ってわかるか?」

「近所って、ここ森の中ですよね?近所とかいないじゃないですか」

「ハァ...あのな、この森は私以外にも動物が住んでるんだよ、お前の馬鹿でかい声で起きたらどうすんだって話」

「むう〜、だったらすぐに開けてくださいよ!」

「ヤなこった」

「カノンもイヤでーす!」

「チッ、クソガキが...なんで、お前みたいな奴が聖女できんの?」

「いやあ〜、神も見る目ありますよね!」


よっぽど節穴かはたまた消去法か、そう考えることにしたサクナは玄関横に置かれていたバケットを手に取り扉を閉める。


「あっ、カノンの目玉焼きは半熟でお願いしまーす!」

「食ったら、帰れよ」


とか言いつつも、しっかりカノンの分も作ってくれる。

サクナ自身も最初の頃はそんなつもりはなかったもののこうも毎日持ってきてくれる内に帰れやなんだとと言いつつも彼女に感謝してる部分はあるため作ってしまうのだ。

テキパキと用意して朝食を準備し終えると二人は椅子へと座った。


「うは〜、相変わらず美味しそ〜」

「教会ならこれ以上のヤツが出るだろ」

「やだな〜、サクナさんが作るご飯はどんな豪勢なものよりも美味しく感じますよ〜!」

「はいはい、そういうことにしとくよ」


大袈裟に褒めるカノンとそれを軽くあしらうサクナ、毎日のように繰り返されるこのやり取り行なっている。


「ご馳走様でした、じゃあサクナさん。カノンは行きますので!それとも今日こそ町へ行きますか?」

「やめとく、下の連中は私のこと嫌いだろうしな」

「皆さん誤解してるんですよ、サクナさんはこんなに優しいのに、カノンは好きですよ、あなたのこと」

「軍人上がりの魔女なんか近くにいたら気味悪いだろ、それにここなら良いって言ってくれただけでもありがたいさ」


どこか悲しげな顔をするサクナに、寂しくないんですか、とカノンは聞いた。


「そんな感情どっかいったよ...いいんだ、私はこれ以上誰かといると自分が嫌いになるから。わかったら早く帰れ」

「わかりました、帰ります──けど、明日も来ます、また明日一緒に朝ごはんを食べましょう?」

「いい加減、起こされるのは飽きた...これやるよ」


懐から雑に投げ渡したのは一本の鍵だった。


「...これって」

「そのうち扉壊されそうだからな、勝手に入ってこい」

「イヤ〜〜〜〜ッッッッタァ!!わかりました、明日からモーニングコールしますね!!じゃあ、また明日!!」


飛び跳ねて馬鹿みたいに喜び、カノンはあっという間にサクナの家を後にした。


「二度寝でもするか...」


サクナの声色はどこか嬉しそうであった。

















その夜、サクナの家を黒づくめの集団が取り囲む。

その中でリーダー格が一人がそれぞれに指示を出していた。


「いいですか、敵は一人だ」

「にしてももやるなあ、まさかここまであの魔女を絆すとはな」

「フフッ、所詮は軍人上がり。ちょっとでも構えばイチコロ」

「その割には半年もかかったわね」

「警戒心が強くてさ〜、結構大変だったんですよ?殺し屋だと思われないようにするのは」


そう言って筋肉質の男に身を寄せるカノンと面白がってケラケラと笑う黒髪の女の三人で笑っていると、その部下である数人が周囲の確認を終えるとその場へと集まってくる。


「いいですか、やつは今ごろ安心感からかグッスリと眠っています。せめてもの慈悲です、楽に殺してあげましょう」

「おっ、いまの聖女ぽかったぞ」

「そのまま聖女やっちゃえば良いんじゃな〜い?」

「もお、やめてくださいよ気色悪い──さて、行きますか」


さっきまでサクナと共にいたカノンはもういない、今の彼女は五百億と大金に目が眩んだ金の亡者である。


「にしてもよ、たかがあんな軍人上がりの女が五百億の賞金首とはな」

「目につく相手を一人残らず殺し、行き着く先には全て死体が転がっていることから『死神』なんて呼ばれてるらしいわ」


これまでサクナに近づいたのも、仲良くなったのも全て五百億と大金のためだ。話している時、一緒に食事をしている時、一度だってカノンはサクナを優しい人だと思ったことはないし金のなる木として見ていた。


「この家に隠し扉などはありません、いいですか作戦通りで」

「ああ」「おっけー」


貰った合鍵で中に入ると、リビング、お風呂場、玄関前と数人ずつ配置につく、もし逃げられた時確実に仕留めるためだ。


(バーカ、誰がお前みたいなバケモノ好きになるんだよ。戦争に負けた無様な敗残兵だよオマエは)


舌なめずりをし、サクナがいる寝室へと音を殺して入る。


(いたいた!)


こんもりと盛り上がるベットに一本のナイフを突き立てる。


「あばよ、負け犬の人でなし!!」


大きく振りかぶり、恨みがあるのか一度刺しただけじゃ飽き足らず何度も何度も刺した。

真っ白いシーツが真っ赤に染まる、カノンの気分は高揚と興奮でいっぱいだった。


「そんなに気持ちがいいか?」

「ええ!とっても!!これが無様な敗残兵の末路、所詮国を守れなかった負け犬!!」

「...そうか、ならもっと刺しとくといい、好きな奴に殺されるなら本望だろ」

「言われなくてもその───ッ!?」


突如後ろを振り返り驚く、なぜならそこにはたった今刺し殺したはずのサクナが腕を組んで立っていたのだから。


「さ、サクナ!?じゃ、じゃあ今のは!?」


真っ赤に染まった毛布を捲り上げるとそこには先ほどまで一緒にいた黒髪の女だった。


「も、モラテ!」

「可哀想に、すやすやと寝てただけなのに」

「いつからだ!!いつ入れ替わっていた!!」

「そんなことよりさ、お仲間大丈夫そ?あんたがこんなに騒いでるというのに誰一人来ないけど」


指摘され、ハッとしたカノンは寝室からでると床には死体となった仲間達が転がっていた。

うそだ、これは悪い夢だ、そう自分に言い聞かせていたが左肩に激痛が走る。


「あ....ああああああああ、い、いだい!!!」


その場でうずくまるカノンを足で押し倒して、サクナその上に座り込む。


「さて、ここで問題」

「は、な、なにいって...がぁぁぁぁ!」


黙っていろと言わんばかりに左肩に刺さっている剣をぐりぐりとねじり傷口を広げる。


「どうして私は五百億の賞金首になったでしょうか、これはわかりやすいように二択にしてやる」

「ぁぁぁ...ぐっ...」

「ひとーつ、襲いかかる殺し屋達を皆殺しにしてきたから」

「あ、あ...」

「ふたーつ、かつて共に戦場で戦ってきた仲間達、戦っていた敵さん達、それを皆殺しにしたから───さあ、ウィッチ?」

「は、は...さ、さい──「ブブー!正解は──どっちもだ」うぁぁぁぁぁ!!!い、いだい!いだい!!」


イジワルしすぎたかなと、サクナ申し訳なさそうに剣を抜き体をどかした。


「あ、そういや質問に答えてなかったな、いつから入れ替わっていたか...だっけ、これはね最初からだよ」

「うぐあ...はっはっ...!」


過呼吸になってしまったカノンを横目に、サクナは気にすることなく喋り続ける。


「私さあ、こういう殺し屋に狙われるの今に始まった話じゃないんだよね。こうやって行く先々で当たり前のように命を狙われる、そしてその度にやり返す──でも、悪いことばかりじゃない」


死体となった一人の懐を漁り有り金を盗っていっては財布を雑に床に投げ捨てる。


「こうやって迷惑料としてお金を拾えるからな、まっ、時たまハズレの人もいるけど」

「ざ、ざけんな...ごろす!ごろしてやる!」

「さっきの言葉、そのままそっくり返してやる、今のアンタは...プッ、無様だよ笑」

「こ、この...悪魔が、死神なんかじゃない、悪魔だ!!」

「人殺しを仕事にしてる奴らにそんなこと言われる筋合いはねえな」


体を引きずり、逃げようとしているカノンにサクナ獲物を仕留める獣のように歩きながらゆっくりと近づく。


「く。くるな!!くるなぁ!!!」


錯乱して待っていたナイフを振り回すが当然当たらない。

そんな彼女の腕を蹴り上げてエモノを飛ばすと左肩を踏みつけ、剣を振りかざす。


「あぐっ!ぐっ、ぐぁっ!き、キサマ!ら、楽に死ねると思うなよ!!フフッハハハ!いつかあの世でオマエを殺してやる!!!!」

「悪いがダンスの先客は間に合ってる───あばよ哀れな殺し屋さん」


その日、手だれの殺し屋達が集まる『ビットガーデン』という組織が壊滅し、その噂は日陰者達の中では大きな話題となり『死神の魔女サクナ』の懸賞金はまた上がったのだった。

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