第16話 「リーナ太ってないもん!」
「ちょっ……最悪死ぬだろ!? なんかバーベルと一緒にエルフの少女が降ってきたんだけど!?」
ジークはリーナの下敷きになっていたが、身を捩って抜け出した。
「おーい、大丈夫かー?」
「大丈夫? リーナさん」
俺たちは穴から一階に飛び降りた。
イゾルデが激怒した。
「なんか上の部屋がメチャクチャうるさいと思ったら、やっぱアンタだったのね! チハル!」
「うむ! トレーニングしてたのだ!」
「あぁ、もうやだ……『ライトウェイトベイビー』って聞こえたかと思ったらやっぱり……思い出し筋肉痛が……!」
イゾルデが身震いした。
グレイスがタバコに火を点ける。
「おい! ここは禁煙だぞ!?」
「チハルさんこそ、ここは禁トレですよ?」
「筋トレしてはいけない決まりなんてないのだ!」
「チッ……」
グレイスは咳をした。俺は思わず、手を伸ばす。
「お、おい。お前ホント、タバコの吸い過ぎだぞ。少しは控え……」
「うるさいですね……もうパーティメンバーでさえないんだから指図は聞きません」
もっともである。俺は口をつぐんだ。
リーナが起き上がり、俺の肘をギュッと握った。
「マスター、こんな人たちのことで心を痛めることはないです」
「まぁ、それもそうだな」
俺は少し考え、納得した。
グレイスが舌打ちし、リーナをねめつけた。
「デブのくせにうるさいですね」
「な、なー! デブではありません! リーナは標準です!」
「デブだから二階の床が抜けて降ってきたのでしょう? デーブデーブ」
グレイスがせせら笑った。大人気ない。
リーナは顔を真っ赤にさせて、地団駄を踏んだ。
「リーナ太ってないもん! 床が古かっただけだもん!」
「床を踏み鳴らさないでください。また床が抜けて地の底まで落ちますよ」
さすが聖女グレイス。コイツはレスバトルが強いのだ。
ましてや、リーナが相手なら簡単にやり込めてしまえるだろう。
リーナはベソをかいて、俺の背後に隠れた。庇うように、シャルが俺たちの前に立つ。
「とにかく、床が抜けてしまったのはわたしたちのせい。ごめんなさい。でも、リーナさんをイジメないで」
「うぅ、シャルぅ」
リーナが涙を流す。
ジークは値踏みするようにシャルの顔を見ると、鼻の下を伸ばした。
「……見れば見るほど、女神のように美しい。今まで見た中で、生きてきた中でダントツの美少女だ」
「あ、あの……」
シャルが引き気味に笑った。
「もちろん、僕への狼藉を許すよ。ただ、条件に……僕とデートを……」
「わたし、好きな人がいますから」
シャルには想い人がいるのか。知らなかった。だが、それなら俺はシャルの想いを守らなければ。
今度は俺がシャルを庇うように前に出た。ジークたちの前で仁王立ちをする。
「ジークよ! トレーニングサボってるだろ! それに、冒険者ともあろうものが市民のことを考えず、被害の出やすいヘルハウンド討伐任務を無視するとは……」
「君には関係ないだろう!」
俺たちはしばらくの間、睨み合っていたが、そこへ宿の店主が現れた。
抜けた二階の床を見上げて、頭を抱えた。
「あぁ……古くなっていたとはいえ……すみません、お怪我はありませんでしたか?」
「僕はバーベルとポッチャリ少女の下敷きになった!」
ジークが声を張り上げた。
リーナが抗議する。
「リーナポッチャリじゃないもん! ポッチャリーナじゃないもん!」
店主はその様子を見て、ホッとした。
「お怪我はないようで」
「いや!? だからバーベルの下敷きになったって!」
ジークが騒いだが、店主は無視した。
「すみません……チハルさんたち」
「いや、俺も床の強度を考えず床引きデッドリフトを弟子にさせてしまった。バーベルの重さと弟子の重さも考えずに」
弁償しますと、と俺は店主に陳謝した。
リーナは「重くないもん!」と膨れた。
「いえ、もう古い造りの家屋ですから……強度が下がっていたんです」
「しかし……善良なる市民に迷惑をかけては、冒険者の名が廃ります」
「……では、半分だけ出していただくというのはどうでしょう?」
俺は了承した。半分だけとはいえ、床の大規模な工事だ。部屋一つ分使えなくなる間、収益も落ちるの必至。その分の埋め合わせをしたら……借金である。
俺はゴクリとツバを飲んだ。
心中を察してか、シャルが俺のそばに立った。
「先生、先生だけに苦労はさせないよ。わたしもしっかり冒険者として稼ぐから!」
「おお、シャル……!」
俺は十五秒ほど、男泣きに泣いた。
かくして、俺は金貨三十枚ほど、現代世界の基準にして三十万円ほどの借金をしてしまった。
「リーナ、少し引き締めような」
「リーナ太ってないもん!」
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