第26話 淀城の邂逅 異母妹の涙と天下人の影
「それでは、秀吉様はとうとう関白様になられるのですね」
「ああ…ないないにの話だったが近いうちに正式に叙せられるだろう。これも、そなたの助言のおかげだ」
「まあ、私はなにも…あっ…」
「大丈夫か?身体がまだ、つらいのではないか。もう休むか」
「ええ、ありがとうございます」
茶々と秀吉が話をしていると大きな水音がしました。
「なんでしょう?今の音は?」
「庭の方からのようだが。曲者が入りこんだのか」
「まあ、どうしてこの城に。まさか…秀吉様のお命を狙ったものでは」
「そんな愚か者がいるのか。そいつの面でも拝んで見るか」
「殿」
「大きな音がしたが何かあったのか」
「曲者を捕らえたのですが茶々様に会わせろと…」
「私にですか?秀吉様のお命を狙った者なら私に会わせろというのはおかしな話ではありませんか」
「そうだな。何が目的かは知らんが、茶々、どうする?」
「そうですね。会うだけ会ってみましょうか」
「茶々が、そういうなら…そのものを連れてまいれ」
連れて来られたのはずぶ濡れになった万吉でした。
「異母兄上…」
「あに…?どういうことだ。茶々」
茶々を呼び捨てにするとは、ということはこの男が秀吉か…ええと……一応、私の命の恩人なんだよな。礼の一つもいうべきか。
「ありがとうございます」
万吉の大きな声に思わず秀吉はビクっとなりました。
「な…なんだ…わしはお前など知らんぞ」
「ええと……そうですよね…私も知りません。ただお師匠様が秀吉様のおかげで私は助かったと、言ってましたので」
「そういえば、北ノ庄城で、異母兄上は、そう言ってましたね。秀吉様、この男は私の異母兄の万福丸ですわ」
「あ…おまえ…あの万福丸…」
「はは…」
「で、何が目的で忍び込んだ」
「いや……ただ、茶々に会いに来たのですが、一介の薬師では取り次いでもらえないもので、で、忍びこもうとしたら、堀に落ちてしまいまして」
「はあ…呆れました。秀吉様、とりあえず、異母兄上の身体を乾かしてやってよろしいでしょうか」
「そうじゃな。ここに忍び込んだわけをそれからゆっくり聞こう」
「はあ、やっと人心地がついた」
「なんなのですか?一体?」
「夢を見たんだ」
「夢?」
「お前が泣いている夢だ。気丈なお前が泣いているんだ。何かあったのかと思って…だから、長浜から日をついであと先考えずに急いで来たものの、一介の薬師では取り次いでもらえないと思ってな」
「それで忍び込んだというわけですか」
「でも…よかった。元気そうだ」
「そういえば私も異母兄上の夢を見ました。異母兄上が私の子は一足早く父上と母上のもとに旅立ったと」
「どういうことだ?」
「おかしいでしょう。この間までお腹の中で元気に動いていたのですよ。なのに、いなくなってしまいました。血が沢山出て…」
「そうだったのか。だから、お前は泣いていたんだな」
「身体をちょっと見せてくれるか」
「ええ…」
大丈夫だ。異常はない。また子も授かれる。
「また、お前によけいなお世話かと言われるかとも思ったのだが。心配で。お前は健康だ。これからも子は授かれる。死んだ子も大丈夫だ。きっと父上や義母上がよき場所に導いてくれる。こういう時は悲しむよりも成仏するように祈ってやるんだ」
「そうですね」
「助作からお前の存念は聞いた。だから、もうお前の人生に口だしはしないつもりだ。だが、心配ぐらいはさせてくれ」
「……異母兄上は少し変わられましたね」
「そうか…それなら、お袖のおかげかもしれないな」
「お袖って?」
「私の女房だ。不幸な生い立ちなのに自分は不幸だなんて思ったことはないて言うんだ。で、いざとなったら私を守ってくれるらしい」
「よい方とめぐりあえたのですね」
「そうだな」
「入ってよいか」
「秀吉様」
「茶々、大丈夫か」
「ええ…異母兄上は優秀な薬師ですのよ。その異母兄上が請け負ってくれました。また、子も授かれると」
「本当か。よかった」
「だから…秀吉様…頑張ってくださいね」
「う…うん…頑張る」
よかった。思ったより秀吉というのはよい方のようだ。
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